SLIDER 場外乱闘・番外編 人生はXLサイズで!!

 今年で89歳を迎える我が爺さん。どうやら彼はいま恋愛中らしい。人は恋をすると“素敵”に見えるなんていうが、たしかにいまの爺さんは凛々しい。心なしか肌つやもいいように見えるじゃないか。が、その格好(!)はさすがにまずいだろう―――。

 話は遡り今から20年近く前のこと。そう1990年代中盤だ。NBAにDanceにHipHopミュージック。当時中坊だった自分は完全にブラックカルチャーに傾倒していた。まぁ世間的にそういったものが流行し始めた時代でもあり、オレら中坊は完全にそれに乗っかったわけだ。The North Face、Ralph Lauren、Calvin Klein、DKNY、Guess、NauticaにHelly Hansenなどなど。思えばCDジャケットに登場する黒人の格好を真似ては、何の恥ずかしげもなく“悦”にひたっていたものだ。とにかく「サイズは大きい方がえらい!!」みたいな変な風潮があったから、選ぶ服はすべてがXLサイズオーバー。それを中坊がダブダブで着ていたものだから、そりゃ大人から見たら「なにごと?」って感じで、まぁ世間の目は非常に冷たいものだったな……。

 けれど歳を重ねるごとに時代の流れも変わりはじめ、仲間たちの格好も次第に変化をしていった。もちろんこと自分においても。ブカブカのXLサイズたちはいつしか必要なくなり、タンスの奥の方へと押しやられたわけだ。そして実家を離れれば、そんな服の存在たちも、とうに忘れてしまい、それらはまさに過去の遺物となった――。

 が、今年お正月。そんな過去の遺物を思い出させてくれる男が現れた。そう、我が爺さんである。久々に実家へと帰り、爺さんに直面するや刹那、見覚えのあるセットアップが目に飛び込んできた。脳内記憶が光のように身体全身にまわり、「ばすっ」と飛び出たアンサー。「爺さん、それオレのじゃん!!」。目の前に立つ、細く痩けた我が血の起源は、ブラックのビーニーに、ブラックのThe North Faceのダウン、そしてブラックのシャカシャカ(ナイロンパンツ)を我がモノ顔で纏うではないか。自信に満ちた彼の表情に、怒りともいえない呆れともいえない不思議な感情がこみあげてくる。まぁ使わないものだからいいけれど、どうしてまたそんな服を着ているのだろうか。とっさにその状況を見た母親がこう言い放つ。
「おじいちゃん好きな人がいるんだって。でね、いまお洒落がしたいんだってさ」。

 聞けば爺さん、週3回ほど通っている地域の老人交流センターでM子さんという'80代前半の女性に恋をしたらしい。彼女はカラオケがとても上手で気さくな方なのだとか。で、爺さんは彼女を前に自分が若いというところを見せたかったらしく、タンスの奥の方へと押しやられていたオレの過去の遺物を掘り出してきたというわけだ。が、本音をいえばやはり爺さんには似合っていない。どうしたっておかしいでしょその格好は。それじゃM子さんだって振り向くわけがないじゃないか。老人には老人なりの、若い人には若い人なりの似合う格好があるってもんでしょ。

 まぁ、爺さんの恋の行方はどうでもいいけれど、こうして過去のメモリーを思い出させてくれたという意味では彼に感謝すべきなのかもしれない。それは恥ずかしい過去であっても、素敵な過去であっても現在の自分を形成している大事なファクターにちがいないのだから。まぁ、格好は変わっても、人生のスケールだけは、ずっと変わらずXLサイズオーバーでいきたいもんだなぁ!!