SLIDER 場外乱闘・番外編 心地良い重力

 “地に足をつけて生きる”。言葉にするのは簡単なことだけれど、実のところ、それってなかなかできることじゃない。さまざまな誘惑やしがらみが取り巻く日常のなかで、人はなんとなく浮遊感覚をともないながら、時を無駄にやりすごすことがきっとあるのだろう。「ここは本当にオレの場所だろうか? いや違うのかもしれない」。もしそんな衝動に駆られ、空気の中をふわふわと無重力に浮くのであれば、たしかな重力を全身で感じ取れる場所へとすぐさま移動した方がいいだろう。とにかくそうでもしないかぎり、時の経過とともに身体はどこまでも高く浮き上がり、いつかは宇宙のチリとなるにちがいないのだから。そう、人は誰しもが自分の居場所で、地面を力強く踏みしめて生きていきたいのだと思う。けれどやはり、それが難しいことであるのはたしかだ――――。

 先日取材で、アメリカはオークランドを訪れたのだが、そこには1年ぶりに見るSLIDERフォトエディターのKEN GOTO、そして姉妹誌ROLLERの海外スタッフKEN NAGAHARAの姿があった。ふたりは自分を含めた日本からの取材チームを心より歓迎してくれ、毎日オークランドでの取材が終わると、友人たちでシェアする大きなガレージに我々を招き、夜な夜な大勢でビールパーティを開いてくれるのだった。そこでの楽しい時間は何にも代え難い貴重な体験だったが、なにより自分が誇らしくそしてうれしく思ったのは、KEN GOTOとKEN NAGAHARAが、ナチュラルにそして生き生きとその空間に溶け込んでいることだった。それは彼らがアメリカナイズされているという意味では決してなく、サンフランシスコ、そしてオークランドに住む日本人として、アメリカ人たちが尊敬を持って彼らに接していたということである。
 彼らは十数年にわたりアメリカで生活をし、きっと言葉にすることなど到底できない苦労があったことは想像に難くない。けれど彼は自分たちのスタイルで毎日をサヴァイヴし、いまの人間関係や地位を築いてきた。KEN GOTOはスケートやストリートの世界で、NAGAHARAはハーレーというモーターサイクルの世界で。ともにアメリカが生んだ、そしてアメリカ人が心より愛するカルチャーの中で、彼らは大きな足跡を残し、一歩ずつゆっくりと前進しているのだ。日本人としてこんなにもうれしく、誇るべきことはないだろう。そう、彼らはアメリカで、たしかに地面を力強く踏みしめて生きているのだ。もしかしたら彼らが心地良い重力を感じられる場所は、ここ日本ではなくアメリカだったのかもしれない。