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 スケートボーダーとして初めてTVに出たのは、かれこれ4年前。突然の依…
──第13回 : 1.5割り増し

2012.08.14

 スケートボーダーとして初めてTVに出たのは、かれこれ4年前。突然の依頼が舞い込んだ。
 「ガールスケーターが主人公のドラマに出ないか?」

 なんと! ガールスケーターが主人公のドラマがこれから放送されるのか! そして、まさか私が主人公もしくは脇役にでも抜擢されたのか?

 自分がどれだけかなんて、その一瞬じゃ考えもつかない。女優願望は女であるならば、1度くらい抱いたことがあるのではないだろうか。そんなもの、もちろん叶わない見果てぬ夢なのだが「もし自分がスレンダーで美人だったら」などと妄想したことがある。私の大きな誤解もあったが、話を聞くところによれば 「病気で体力のない少女が移動手段のひとつとしてスケートボードに乗っている」という設定。そのヒロインは某若手女優さんで、私には「スケボーのスタントをして欲しい」というわけだった。あぁ、なるほど…。そりゃそうだ!!

 まずはその女優さんをネットで調べると、やはり華奢で小柄なことが確認できた。スタントをするならば容姿が似ていないと難しいのではないか? 不安が募る。衣装合わせまで10日もなかったが、ダイエットを試みた。が、必死さが足らず記憶では1キロしか痩せなかった。

 いざ、衣装合わせの日。某スタジオへ行くと、なぜかそこにはガールスケーターの横溝麻衣ちゃんがいた。どうやら麻衣ちゃんもどこからかスタントの依頼を受けたようで、我らは久しぶりの再会によろこんだのもつかの間、私の脳裏に嫌な予感。華奢で小柄で可愛い麻衣ちゃんと、ポチャコで背も高く体格のいい私。どう考えても麻衣ちゃんが有利であった。まさか「スタントなんてひとりで十分だろう」と思っていただけに、天秤に掛けられたら完全に重みに耐えれず崩れ落ちるだろうと思った。

 実はその日、めずらしく全身黒い服に身を包み、いつもより念入りにメイクをした、できるだけ若々しく痩せて見えるように。その甲斐あってか、それとも我らのやる気を察してくれたのか、ダブルスタントという結論に至り、その日は安心して帰宅。

 さて、撮影当日。麻衣ちゃんと早朝6:00前に渋谷からロケバスに乗り込み、緊張しながら撮影場所まで移動。人生初のロケバス。ド素人の私たちがロケバスに乗れるなんて感激だ。スタッフ用にと、朝食のおにぎり弁当まで用意されていた。これが噂のロケ弁なのか、と感心するばかりだ。そのロケバスにはスタッフさん、主演の若手女優さんなどが乗り合わせた。

 そして現場に着くと、慌ただしく撮影の準備が始まった。私と麻衣ちゃんは軽くウォーミングアップ。まだ朝の7:30。身体が思うように動かない。

 この日は、最初の登場シーンの吹き替えの撮影だった。歩道橋の上をフルプッシュし、歩道橋の階段についている自転車用滑り止めがついた細長いスロープを勢いよく下る、というシーン。麻衣ちゃんが「怖い」と言ったので私が担当することになった。

 しばらくしてスタイリストさんに呼ばれ、ロケバスで着替えるよう指示された。衣装合わせをした意味もなく、女優さんと同じサイズの服が用意されていた。デニムのミニスカート、紺のパーカー、黒のダウンベスト、女優さんと同じ髪型にするためにショートカットのヅラ。TVで観る女優さんは、私たちが思っている以上に華奢なので、もちろん私の体型ではミニスカートのファスナーは閉まらない。パーカーで隠して、なんとか誤魔化す。さらに、万が一に備えミニスカートの下に黒いスパッツを履くことをすすめられた。が、そんな隙間などどこにある? パツンパツンで今にもはちきれそうだ、いや破けそうである。これでプッシュができるのか? 破けたらおパンツ丸見えを撮られるのか? 不安がまた募る。

 パツンパツンのこの姿を披露する時はきた。ロケバスから出てくるように言われ、恐る恐る大勢のスタッフの前へ。

「わ~」
 私の心配をよそに、スタッフのみなさんは笑顔と拍手であった。
「似合う似合う! 可愛いね~そっくりだよ!」

 そんなわけがあってたまるか! 彼女より明らかに1.5増しだ。私の緊張と不安を吹き飛ばそうと気をつかってくれているに違いない。ウエストが閉まらないことは絶対に内緒だ。

 その格好で出番を待つ間、麻衣ちゃんにお願いして記念に写真を撮って貰った。今でも写真は残っているが、恥ずかしくて身内以外には公表できない。はっきり言って、本当にサイズが合っておらず不自然もいいところだった。

 そんなパツンパツンであったが、撮影はスタートした。顔はまったく映らず、腰から下だけ映すと言われ、フルプッシュシーンはたった2回でOKが出た。

 今度は滑り止めが5センチ感覚でついている細くて路面の悪いスロープを下る撮影だ。監督さんからの要望では「20mはあるそのスロープを一気に下って欲しい」とのことだった。とにかく勢いとインパクト、ウィールのゴーゴー鳴る音が欲しかったようだ。万が一、細いスロープから踏み外せば、階段でつまづいて私が宙を舞う。そう心配され階段の途中で数人のスタッフが「いつでも僕の胸に飛び込んでおいで」のポーズと険しい顔でスタンバイ。そして予想通り1度だけ踏み外し、スタッフさんの胸に勢いよくダイブ。よろけながらも私を支えてくださりありがとうございました。さぞ重かったことでしょう。

 結局その後、数回スケートボードの登場シーンはあったものの、私は仕事の都合で参加できず1度きりの登場シーンとなった。後はすべて麻衣ちゃんにおまかせしたが、2話目くらいで主人公の病気が悪化してスケボーどころではなくなってしまった、というストーリーだった。

 そのドラマが有料チャンネルでの放送だったため、ほとんどの人に観てもらえないのかとガッカリしたのだが、1話目だけインターネットで無料視聴が可能だった。視聴した友達は「チヒロックのプッシュってすぐに分かった」と言ってくれたが、普通に視聴者目線から言えば誰がスタントしているかなんて分からない。それでもスケートボードをやっている人が観たら、女優さんのプッシュと私のプッシュの違いくらいは分かるのかも。そして誰が観ても分かるのは、私がスタントしているシーンだけやけにぽっちゃりしているのだ。

–Chihirock

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