KYLE WALKER PRO 2

 僕のこれまでの人生の中で、過去にたった一度だけ、人を殴ったことがある…
──第1回 : 「僕のパンチ」

2011.10.15

 僕のこれまでの人生の中で、過去にたった一度だけ、人を殴ったことがある。そもそも小心者の自分は、今もなお、そんな勇気のいることはできないのだが。

 それは、中学1年生の時。文化祭前で、放課後は毎日準備に追われていた。中学生活にもだいぶ慣れ、かわいい女子の先輩をひたすら眺めていた時期。そんなある朝、いつもどおり友達と登校していると、2年生の先輩が、3階の教室から何かうちらに向って、叫んでる。よく聞いてみると

「おまえらボコっかんなぁ」と。

 ボコるって? あのボコるだよな?
 オレたち、ボコボコにされちゃうの?
 なんで? そもそも、あなたたちとうちら、普段からそんなに絡みないじゃないですか。真っ先にそう思った。まあちょっぴり後輩に威嚇でもしているのだろう? と軽い気持ちでいた。

 しかし、その後もうちらに対する叫びが、数日続いた。しまいには、1階のうちらがよくたまっている場所に、上から痰の絡んだ唾を吐いてくる。わざわざ痰を絡めるあたりから、どうやら本気らしく、一部の先輩方が、うちらに切れてる様子。まあ、簡単にいうと「態度が生意気」だと。だからそんなこといわれても、あなたたちとうちら、普段からそんなに絡みないじゃないですか。またそう思った。

 とうとう、命令がくだされた。いわゆる呼び出しである。「明日の放課後、中学から少しはなれた、隣街にある公園に来い」と。小心者の僕は正直ビビっていた、友達も緊張した表情を隠しきれていない。でも、呼び出しをくらった以上いかない訳にはいかず、うちらはビクビクしながら向かった。

 その日呼び出しをくらったのは、全員で10人ちょい。その中には、あきらかに生意気からかけ離れているヤツもいた、可哀想に。先輩方たちは、7~8人くらいで、「おまえら全員でかかって来い」と気合が入っている。「かかって来い」と言われても、うちらにはあなたたちに恨みはありませんから。何度も思いますが、そもそもあなたたちとうちら、普段からあまり絡みないじゃないですか。もうやめましょうよ。ズボンを下げるのやめますし、これからは必要以上に挨拶しますから。

 そんな思いはもちろん届かない。ビクビクしながら、一向に手をださないうちらに対して、とうとう嫌気がさしたのか、むこうのリーダー格が殴りかかってきた。ゴング。みんなが一斉にゴチャゴチャになり、掴みあった。僕も腹をくくり、一番近くにいた先輩を思いきり殴った。意外にもヒットし、顔を抑えながら、僕を睨んでいる。やばい、切れてる。もう、後戻りはできない。戦いは時間にしてどのくらいだったのだろうか。30分くらい続いた気もするが、もしかしたら、5分くらいだったのかもしれない。とりあえず、僕もそれなりに攻撃を受け、あと何発かは殴った。

 とその時。

「警察だ!」という声が響いた。
 その瞬間、全員が我に帰り、みんなが猛ダッシュで逃げた。無理もない、小さな公園で、学ランを着てる20人以上のガキが、モッサモッサしてたのだから。きっと周りの住民からの通報だろう。

 戦いと言えるかわからないが、この1年生対2年生のしょぼい乱闘は、しょぼさに相応しいくらい、あっけなく、そして中途半端に幕を閉じた。

 僕は幸いにも目立った外傷はなかった。むしろ、顔は全然殴られなかった。一方、僕と殴り合った先輩は、後日、目をパンパンに腫らした状態で登校していた。一部の生徒の間でも、先生の間でも「どうしたんだ?」とチラホラ噂になっているようだった。そんな状態の中、その先輩は僕に対してこんなことをぼやいていたらしい。

「あいつ、グーで顔はなしだろ」と。

 グーで顔はなし。僕はこの言葉の意味を、あれから10数年たった今も理解できていない。

DESHI

旅とドトールと読書をこよなく愛する吟遊詩人。 “我以外はすべて師匠なり”が座右の銘。

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