詩的で映像美あふれる作品で知られるジェイコブ・ハリスがASICS SKATEBOARDINGの最新作『A GUIDED TOUR』で新たなビジュアルストーリーを描き出した。多様なライダーが各地を巡るスケートトリップに「ウェルネス」という奇妙で現代的な概念を重ね合わせたこの映像は、スケートビデオでありながら風刺的で誠実。ジェイコブが語るその着想と制作の舞台裏とは。
──JACOB HARRIS / ジェイコブ・ハリス
[ JAPANESE / ENGLISH ]
Photos courtesy of ASICS Skateboarding
Special thanks_ASICS
VHSMAG(以下V): 『A Guided Tour』のコンセプトについて聞かせてください。
ジェイコブ・ハリス(以下J): アイデアがどう生まれたのか正直あまり覚えていないけど、チームもロケーションもかなり多様だったから全体をひとつにまとめる「枠」のようなものが必要だと自然に感じたんだ。そういう構成はたいてい作り物っぽくなりがちだから、いっそのこと思いきり人工的にしてしまおうと。「ウェルネス」という言葉やその周辺の概念は、今やいろんな文化的な論点が吸い込まれていく奇妙な渦みたいになっていて、その重なり方や理由がよくわからないんだよね。多くの人が何かしらの切迫した精神的な問題を抱えている一方で、それを治すと称して何かを売ろうとする人たちもたくさんいる。でもその解決策のほうが、もとの問題よりよっぽどバカげていることも多い。そうした文化的なゴミの谷間みたいなところに、どこかおかしくて、ちょっと不気味なものがあるような気がするんだ。
V: ブランドからの要望と自分自身が作品を通して表現したかったことのバランスについては?
J: 特に「これを表現したい」という明確な思いがあったわけではないね。単純にASICSのためにしっかりしたスケートビデオを作るタイミングだと感じていた。もちろん映像的な遊びはいつも入れたいと思っているしASICSはそれをかなり自由にやらせてくれたから、正直バランスを取るという感覚はあまりなかった。
V: 特に印象に残っているセッションや出来事は?
J: 特に印象に残っているのはふたつのセッション。ひとつは、屋内のダブルステアをみんなで一列になってヒットしたとき。たしか夜中の2時くらいで、ヴィクター(・カンピロ)がとんでもないラインを決めたんだ。そこは人工の岩でできたやたら音が反響する無機質な空間で、全体に不気味な静けさが漂っていて。ヴィクターがメイクした瞬間の、あのピュアで圧倒的な喜びは本当に貴重で、世界から完全に切り離されたタイルのトンネルを飛び抜けていくような感覚だった。自然とハイになったような最高の瞬間。
もうひとつは、沖縄でヤッコがラストトリックを決めたとき。あまりにも衝撃的で、見ていた全員の頭が一瞬リセットされたような感覚だった。しかもまったく予想していなかったタイミングで。あのスポットは美しくてどこか奇妙なコンクリートのドックだったんだけど、グリース風のファッションの地元のキッズが悪ふざけしていて、その全体の空気がすごくシュールで楽しかった。
あとは旅の最終日にヘルシンキでボートを漕いで島に渡って、DIYのサウナに入ったのも最高だった。ビールを飲んで、焚き火をして、素晴らしい旅の締めくくりを満喫したんだ。あの時期は夜の1時くらいまで明るくて、本当に最高の時間だった。



V: ジェイコブにとって「良質なスケートビデオ」とはどんなもの?
J: 何かしらを感じさせてくれるもの。
V: ジェイコブの作品にはトリックを記録するだけでなく詩的な雰囲気があるよね。そうした表現を生み出すために意識的に大切にしている要素は?
J: ありがとう。でも正直、自分が何に意識を向けているのかはよくわからないんだ。気になるものに自然と惹かれていく感じだね。たぶん自分のなかで共通して惹かれるテーマみたいなものはあるんだと思う。それは「こだわり」と呼べるものかもしれないけど、それが何なのかははっきりしない。ひとつ言えるのは、「本物であること」にはかなり強い関心がある。人工的に作られた環境のなかで、完全な人工物と自然なものがぶつかり合う瞬間とか、オレらのような本来は自発的で突拍子のないタイプの存在がそうした空間をどう埋めていくのか。そういうところに目を奪われることが多いね。
V: スケートを撮影するときに、意識しているルールや本能的に従っている感覚はある?
J: 長年のうちに身についたクセみたいなものはあると思う。でもたぶんそれはあまり良くないもので、要するに慣れや怠けみたいなものなんだろうね。結局のところ、最終的には映像を良く見せたいとかエネルギーを感じさせたいという思いがあって、その感覚が多くの判断を左右しているんだと思う。
V: 『A Guided Tour』を編集するうえで、特に重視したポイントは?
J: 今の時代は、とにかく「注意の奪い合い」みたいな状況があると思うんだ。だから映像や音でしっかりと雰囲気を作りたい一方で、幅広い観客を退屈させないようにするという緊張感がつねにある。自分は他のエディターと比べるとかなり自己満足的なタイプだと思うから、そのバランスを取るのはつねに葛藤だね。だからこそスケートの部分に関しては、他の要素に興味がない人でもちゃんと楽しめるようにすることを心がけているかな。



V: 音楽のセレクションや全体の構成はどのように組み立てていったの?
J: 自然な流れと作り込まれた部分の両方があると思う。まず手元にある映像を見て、どのクリップ同士が呼応しているかを感じ取り、それをもとに周りの風景を組み立てていく。あとは、それがひとつの作品として自立することを願うような感じ。音楽に関しては、「こういう雰囲気が合いそうだな」という直感がまずあって、あとは偶然出会ったものを拾っていくようなところもある。ただ権利の問題があるから選択肢がかなり限られてしまうんだよ。それが一番頭を悩ませる部分だね。
V: ASICSというブランドとの取り組みのなかで、興味深かった点や、他のブランドと違うと感じたところは?
J: ASICSはとにかくディテールへのこだわりがすごいんだ。スケートカルチャーに対しても、正しい形で向き合おうとしているのが伝わってくる。アーカイブも本当に素晴らしくて、そこから引き出せる歴史の厚みも魅力的。それに日本やアメリカ、ヨーロッパの文化の違いをどう捉えるか。その間に生まれる感覚やズレも、アイデアを生み出すうえで豊かな土壌になっていると思う。
V: ASICSのライダーを撮影したりブランドのチームと関わったりするなかで、印象に残ったことや刺激を受けたことは?
J: ライダーたちは本当に個性がバラバラなんだ。ジーノやブレントのようなレジェンドから、シェイ、アクワシ、エヴァンといった若手、そして最近加わったヨーロッパ勢のヴィクターやヤッコまで。特にこれが印象的だったというひとつの出来事を挙げるのは難しいけど、そうした多様な連中と一緒にいることで、つねに人とは何か、何がその人を動かしているのかということを学ばせてもらっている気がする。
V: 創作面で影響を受けた映画監督や作品は?
J: 挙げたらきりがないけど…ひとり挙げるならピーター・グリーナウェイ。
V: これからスケートビデオというジャンルは、どのように進化していくと思う? そして自分自身はどんな役割を担っていくと思う?
J: 正直まったくわからないね。これからは若い世代が何に反応するか、そしてアルゴリズムがどう調整されるか次第なんじゃないかな。願わくばフルレングスが残っていく余地があってほしいけど…。まあ、そのうちオレみたいなタイプの出番はなくなるかもしれないね(笑)。

V: 『A Guided Tour』を終えて、今後探ってみたい映像表現やコンセプトはある?
J: 特にこれといった具体的な構想はないかな。でもさっき話した「ウェルネス」のテーマをもう少し掘り下げたバリエーションのようなものをやってみたいね。人を助けるようなものを真っ向から批判したいわけではないから、そこにはちゃんとした誠実さも感じ取ってもらえたらと思う。トーンとしては、冗談と真面目のあいだみたいなところで。基本的にはただふざけているだけなんだけどね(笑)。
Jacob Harris
@jacobelliottharris
ロンドンを拠点に活動する映像作家。独自の映像表現と編集センスで、スケートコミュニティのなかでも際立った存在として知られる。代表作に『Vase』や『Atlantic Drift』シリーズなどがあり、スケートと映像芸術の境界を行き来するスタイルで高い評価を得ている。最新作はASICS Skateboardingの『A Guided Tour』。








