東京・葛飾区の小菅に、ついにスケートパークが誕生する。このプロジェクトを牽引したのは、オリンピック日本代表コーチとしても知られる早川大輔と、全国各地のパークを手がけてきたMBMの木村将人。地元に根ざしたスケーターたちの想いと行政の理解、そして現場を支えた職人たちの手仕事が重なって形になったコミュニティの結晶。
──KOSUGE NISHIKOEN SKATEPARK / 小菅西公園スケートパーク
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Special thanks_MBM Parkbuilders
VHSMAG(以下V): まず葛飾区の小菅にスケートパークを作ることになったきっかけや、プロジェクトのストーリーについて聞かせてください。早川くんはこのプロジェクトにかなり尽力されたと聞いています。
早川大輔(以下H): 何人かデザインに関わっている人がいるんですけど、自分が動き出したのはオリンピックが決まった直後の2016年か2017年頃。地元が葛飾区で、ワールドスケートジャパンの平沢会長も葛飾区が地元ということもあって。それで当時の事務局長だった松本さんという方が、葛飾区にパークを作りたいという話をつないでくださったのがきっかけです。
V: 当初から今の場所が候補だったんですか?
H: いい場所はないかと探していて、最初は小菅西公園の高速道路の反対側にある東公園の緑地が候補。人が少ない公園だったから、そこでできないかと話を持っていったのが最初。ただその話は一旦止まってしまって。
V: その後はどのように再始動したんですか? 結果的に10年越しくらいの構想ですよね。
H: 僕が葛飾区でやっていたお店のお客さんから昨年突然連絡が来て。そのお客さんの筋トレ仲間に区の職員さんがいて、葛飾区でスケートボードパークを検討しているという話があって「早川さんという人がいる」っていう感じで繋いでくれたんです。その職員さんと会ったときには、すでにこの場所やその先のことがほぼ決まっていました。
V: 当初から関わっていたのはどんな方々ですか?
H: 打ち合わせに参加していたのは、ローカルスケーターの田中くん、ワールドスケートジャパンの事務局長だった松本さん、そしてオリンピックで一緒にコーチをしていた小川 元とか。元も葛飾区の人間なんだけど、どうやら区から連盟側に話が来て参加していて。連盟もいるし、ローカルスケーターもいる。みんな別々のベクトルでアプローチがあったみたいで。
木村将人(以下K): MBMはローカルの田中さんたちに声をかけられて現場を見に行ったことで進めることになりました。そのときに設計屋のNiXに話をして、我々は施工で関わることになりました。
V: ちなみに小菅周辺のスケート事情はどんな感じなんですか?
H: 僕が10代の頃だから、30年以上前に高速の下にミニランプがあったりとか、足立区の方に行くとアキラットがあったり。初めて尾澤 彰くんと会ったのもそのミニランプなんですよ。それ以外にもこの辺は昔からスポットがあったり消えたりで、川の手のスケーターたちの庭っていうか。
V: 西宮ジョシュアも途中から区に連絡をして参加することになったって聞きました。
H: Haroshiが葛飾区のパーク建設の発表を知ってジョシュアに連絡させたみたい。それでジョシュアが打ち合わせに来たら僕らがいるみたいな(笑)。
V: パークのデザインはどのように進めたんですか?
H: 完全にみんなで協議して意見を取り入れた感じです。ローカルのスケーターそれぞれのスタイルや意見があるから。キュンキュンのRが欲しいとか、たとえばジョシュアはRなんて必要なくてフラットがキレイじゃないと困るとか。そういうのを僕がアレンジしながらまとめて、NiXに整理してもらうという作業ですね。
K: 私も現場で進めるときは、まずローカルの意見を聞くんですけど、最近は多種多様っていうか。世代が下がってきていることもあって、まんべんなく意見を取り入れると大変。まとめるのが結構難しい。
V: 今回のプロジェクトで意見がぶつかることはなかったんですか?
K: あったけど、大ちゃんがまとめたんですよ。まとめ役がいないと絶対だめ。
H: スケーターの意見と行政が考えるものには感覚の乖離があるし求める基準も違うから。両方が納得できる落としどころを見つけるために、間に立って調整する必要性があるって強く感じましたね。
—早川大輔
K: ローカルスケーターの間でも意見の違いがあるじゃないですか。「お前はレールが得意だからレールが欲しいんだろう」「お前はボックスが好きだからだろう」といった意見が出るんです。まとめ役がいない現場はなかなか意見がまとまらないですね。
H: みんな自分が滑りたいものを作りたいのはすごくわかる。でも時間が経てば滑りたいものも変わっていくものだから。しかも行政が作るパークは一度作ると変えられない。「自分が5年後どういう滑りをしているかまで想像できる人」がほとんどいないという点も難しい。今滑りたいものを作りたいという気持ちはわかるけど、未来を見据える視点が必要。落としどころを考えたときに、未来を想像したなかで地元のスケートシーンをどういうふうに活性化させていくか、みんなが楽しめる場にするかとか、教育の場にどう使えるかとか。そこまで考えて話ができるといいものができるんじゃないかなって思いますね。
V: これまでの経験が今回のプロジェクトに生きていると思う点はどこですか?
H: みんな最初に既存のパークの「どこどこみたいなものが欲しい」ってサンプリングを求めがちだけど、僕はそれがスケートボードの良さを失わせると思ってい て。ストリートスケートの面白さは、スケート用ではないものをスキルで表現に変えていくことじゃないですか。だから何かをサンプリングして似たようなものを作っちゃうと、同じ動きとか見たことのあることしか表現できなくなっちゃう。それがもったいないと思って。だったら「ここにしかないもの」や「ここだからできるもの」というイメージで考えようってみんなに伝えながら進めました。
K: 私はスケートパーク建設の知識が薄い行政や業者と、地元のスケーターの考え方をつなぐ役割。たとえば「ここのアールはこういう感じになっちゃうけどどう?」という確認を取って、それを業者に正確に伝えるのが重要な仕事ですね。AパターンとかBパターンとか、そもそもカタログがあるようなパーク建設はダメ。地元の意見を聞いてやらないと。最近思うんだけど、パークを作って、話題になって、ニュースに出て。「この地域初めての〜」とかいろいろ言うじゃないですか。でも半年後にそこに人がいるかというと、そうでないところもあって。人がいるところといないところに分かれちゃう。それはやっぱり作り手の情熱が大切で、それ次第というところもありますよね。
V: 木村さんはよく「アツい人と仕事をするといいものができる」みたいなことを言っていますよね。今回はどうでしたか?
K: 私も不安なところがあるわけですよ。何個もパークを作っていると不安になってくる。でも大ちゃんがいるとその不安がないんです。任せられるっていうか。頼まれて作ったからには評判が気になるじゃないですか。初期の頃は私たちも粋がっていて、「こっちのほうがいいに決まってる」とか言っていましたけど、自分の意見をゴリ押しする立場じゃないんで。毎日滑る人がいいと思えなければ意味がないし。
V: 早川くんはMBMと組んでどうでしたか?
H: もちろん安心感がありました。行政が依頼する施工会社や造園屋とかは「街を作るプロ」だけど、スケートパークは本当に別物だから。「滑る感覚」が言葉だけで伝わって、「なるほどね」って施工してくれるわけじゃない。短い言葉やLINEのやり取りでニュアンスや感覚がビシッと伝わって、それ以上の仕上がりで返ってくるのは木村さんに任せないとできない部分だから。スケートボードに愛があるかどうか。それはすぐに感じるじゃないですか。
K: 早川さんをはじめ、西川さん、本間さん、アキさん。みなさんからいつもお叱りを受けながら、勉強させていただいています! 「これはダメだよ」って言われないように頑張んねぇとって(笑)。
H: コンクリを打っちゃったらもう変えられないじゃないですか。だからLINEの動画で見せてくれながら「これでいい?」って確認してくれるんで。
V: そこまで細かいやり取りをしているんですか?
K: だってスケートボードはウィールが小さくて石が1個あっただけでこけてしまう世界ですからね。たとえばRにしても、一定なのか、「キュンときてグン」なのか「キュンキュン」なのかによって全然滑り心地が違う。でも見た目は一緒っていう。
H: 「Rを上ったときにリップで体が浮くのか浮かないのか」とかいう感覚に基づいてすり付けをあと5cm伸ばすとか。ミリ単位の違いも木村さんだとすぐに伝わるから助かっています。



V: ではセクションの特徴を教えてください。
H: 特徴としては、まず耐久性を考えた石張りのきれいなフラット。あとはバンクが多めのストリートセクションで、プラザっぽい雰囲気もあります。アールもうまく取り入れて、僕としてうれしいのは浅めのミニボウルが入っている点。全体を通して、いろんなスケートを学べる、全般的に楽しめるパークになっていると思います。
V: 幅広いレベルのスケーターが楽しめるように設計されている感じですね。
H: そうですね。行政は初級・中級・上級と分けたがるじゃないですか。でも自分がスケートボードをやってきたなかで、そんなカテゴライズされたことなんて一度もないんですよ。どこをどう使うかをみんなでやれる雰囲気の方がいい。初心者も成長のきっかけを掴めるし、プロが初級のセクションを滑ってもプロの滑りになるわけだから。
V: 木村さんが気に入っている点はどこですか?
K: 石のアール。あとはパーク全体が石張りになっている点ですね。石材はコストが高いから行政からなかなかオッケーを出してもらえないものだと思うけど、これをよく承認してもらえたなと思いましたね。コンクリートを敷いてわざわざその上に石を置くわけだから。すごく人気が出ると思いますね。
V: パークのオープン時期や利用条件は決まっていますか?
H: 来年の3月にオープン予定です。フットサル場も運営している場所なので無料にはできないけど、かなり値段を抑えた利用料がかかるという感じ。行政には「安ければ安いほどかっこいいですよ」って伝えてあります(笑)。ナイター設備も整っています。
V: 早川くんはこのパークを今後どのように発展させていきたいですか?
H: 葛飾区初のパークになるから、僕が経験してきたことを次の世代、その次の世代へとどんどん伝えて残していきたいですね。ジョシュアのような「かっこいいスケーター」がもっとたくさん出て、それを目指して人が集まってくるような、噂が流れる場所になってほしい。「スケーターはかっこよくなくてはダメ」というのを覚えた地元だから。痺れるようなかっこよさが欲しいですね。
—木村将人
V: 尾澤イズムですね。では木村さんが考える、今後のスケートパーク建設の方向性や課題は何でしょうか?
K: コンパクトなパークが増えてほしいと考えています。アメリカのように、近所にスケートパークがたくさんある状態。そうすれば利用者が分散するし、そこに極端に特徴的なセクションがなくても、Rやバンク、マニュアル台といった基本的なものがあれば十分だと思います。
H: 捉え方はいろいろあるけど、オリンピックでスケートボードが「みんなのもの」になった今、税金を使って作る施設は「みんなのもの」であるべきだと思います。大きすぎて見ただけで圧倒されるようなパークだと、そこを滑れる一部の人だけの練習場になってしまう。そうではなくて、パークとは公園なんで。誰もができる遊びのひとつとして、いろんなところにちょこっとした面白いアイデアが散りばめられた小さなパークがある未来が理想ですね。
K: 全国大会ができるような巨大な施設は、笠間や宇都宮、福岡などにできていますし、世界戦なんて年に1回か2回しかないわけだから。それよりも、主要都市にひとつでも、毎日「また明日」って帰ってくるローカルパークがある方がスケートシーン全体のためにいいと思いますね。


MBM Parkbuilders
@mbm_parkbuilders
茨城県を拠点とする、作業員が全員スケーターのスケートパーク専門の建設会社。スケーターの目線に立ったアプローチでのパークビルドに定評がある。全国各地でつねに工事はフル稼働。これまでに手掛けたスケートパークは数しれず。
Daisuke Hayakawa
@daisukehayakawa_jp
1974年生まれ、東京都葛飾区出身。 オリンピック日本代表コーチを務める傍らHibridを運営。自身が率いるSKATE HARD Inc.では、次世代のスケーターを海外へと羽ばたかせるプロジェクトを展開するなど後進の育成にも尽力している。









