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弟子コラム「オッパッピー!」
──第29回:風が痛い

2019.08.16

 「では、こちらで尿検査をお願いします」。看護師さんから目盛りがついた紙コップを手渡された。10年ぶりくらいに健康診断に行くことになったのだ。今の仕事場では、年1回必ず行かないといけないらしい。
 僕は健康診断の数日前から、結構本気でびびっていた。「やばい病気になってたらどうしよう…」「以前の病気が再発してたら…」「そういえば最近内蔵が軽く痛むような…」「仕事できなくなったら…」「入籍したばかりなのに…」。などと、マイナスな妄想しか思い浮かばなくなっていた。普段滅多に病院に行かない(むしろ避けている)自分にとってはなおさら不安がよぎる。
 「ここに置いとけばいいですか?」。僕は先ほどカップに注いだ生温かいホヤホヤの尿を、ぎこちなくデスクの上に置いた。いくら健康診断とはいえ、人に、ましてや女性に自分のおしっこを渡すのは恥ずかしい。今後の人生でこんなとき以外に人に自分のおしっこを渡すことなどあるのだろうか? 看護師さんはなんのためらいもなく、当たり前のように僕のおしっこを受けとってくれた。まるで、行きつけのBARでオレンジ色に輝いたファジーネーブルを受け取るかのように…。


 2週間後。「デシくん、はいこれ!」と、仕事場の経理担当者から健康診断の書類が手渡された(ちなみに職場でもデシと呼ばれている)。僕は、恐る恐る検査結果の書類に目を通した。マジで見るのが怖かった。が、総合評価は「C」。生活習慣を改善し経過観察、みたいな感じだった。「D2」だと強制精密検査らしい。かなり安心した。さらに詳しく機能別判定を見てみると、ある項目以外はすべて「A」判定だった。「なんだよ! オレの身体ちゃん超優秀!! 毎日ありがとね♡」と、びびりまくってた自分が嘘のように強気になった。いや、ただ油断は禁物。ひとつの項目が基準をオーバーしていた。それは「尿酸値」だった。

 「あー、痛風予備軍だね。酒飲み過ぎだな。このままなら4、50代から出てくるかもね」。尿酸値といえば「痛風」が思いつく。僕は職場で痛風経験のある先輩に自分の尿酸値を伝えたら、そんな言葉が返ってきた。「痛風ってかなり痛いんですか?」とすかさず聞いてみた。「痛えってもんじゃねぇよ! デシくんスケボーでいっぱい怪我したことあるでしょ? オレは骨折したことないけど、イメージ的には骨折した時の痛みがずーっと続く感じだよ」

 想像を絶する。僕はスケートであまり大怪我をしたことないが、少なからず骨折経験はある。その痛みがず〜っと、計り知れない…。その先輩は痛風発作が起こった時、真冬にも関わらず仕事中でも氷水を入れたバケツに足を突っ込み痛みを紛らわせてたらしい。

 僕は28歳くらいの時に金沢に引っ越した。そのタイミングからほぼ毎日酒を飲むようになった。もともと酒は好きなほうだったが、たまに飲むくらいだった。金沢の繁華街、片町に徒歩で行ける距離のアパートに住むようになったのが原因だったのかもしれない(ちなみに2DK水道代込みで家賃2万5000円の激安物件)。まあ理由はどうあれ、こよなく酒を愛するようになり、外でも家でも毎日飲んでいた(基本ビールだが)。お金に余裕があれば知り合いのBARに飲みにいく。お金がなければ家で、鎮座ドープネスの曲を程良い音量で流し、発泡酒をひたすら飲む。インフルエンザになり、産まれたての子鹿みたいになった時も、処方された抗生物質をビールで飲むこともあった。

 スケーターは酒が大好きだ(まったく飲まない人もいると思うけど)。自分も含め、今まで出会ったスケーターはほぼ全員といえるくらいみんな酒が好き。コンビニ前でスケートするわけでもなく、酒を片手にたむろし卑猥な話で盛り上がる。はたまた、個人プレーでナンパする。ほろ酔いのなか車に轢かれそうになりながらも、イヤホンでFishmansを聴きながら街をナイトクルージング。スケートトリップ終わりに仲間と爆飲みし、夢と言う名の妄想を語り「お前ならできるよ!!」と無駄に褒め合う。そんな最高の経験をほとんどのスケーターが味わってるのではないか? スケーターと酒は切っても切れない蜜月関係なのだ。そして、僕はなにがあっても酒を飲み続ける。尿酸値? 痛風?
 「そんなの関係ねぇ!!!」

 

DESHI

旅とドトールと読書をこよなく愛する吟遊詩人。 “我以外はすべて師匠なり”が座右の銘。

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