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 あの日は久しぶりに訪れた試練の時間だった。翌日にG-SHOCK Pr…
──第5回:ひとりタフネス(前編)

2013.04.23

 あの日は久しぶりに訪れた試練の時間だった。翌日にG-SHOCK Presents REAL TOUGHNESSを控えた日。以前、オレは本戦へのチケットをかけた寒河江大会のMCをやり、VHSMAGと運営サイドとミーティングをし、事細かな進行状況の確認や、クライアントとなるCASIO側が伝えて欲しいメッセージなど、到底ひとりではこなすことのできない、いわば業務と言うものに従事していた。
 場所は六本木ヒルズ、予想されるオーディエンスの数は1万人にものぼるまさに国内No. 1とも言えるカウンターカルチャーのイベント。ライダーや関係者を含め、並々ならぬ思いで当日に向けた準備を進めていたに違いない。
 イベントを成功させるには少なからずともMCであるオレの動きも鍵となってくる。「どれだけオーディエンスを惹きつけるか、協賛している各企業に満足してもらえるか、そして戦いに挑むライダーたちにより良い最高のコンディションでステージに立ち、チャレンジしてもらうか」。さまざまな思いが頭を駆け巡っていた。

 REAL TOUGHNESSを控えた前日、オレは友人と共に昼間からスケートに行っていた。その友人は遠く愛知からREAL TOUGHNESSを見るために、シーンの最前線というものを見て今後に活かすために来た業界関係者でもある。スケートスキルは最高だ。友人の名前は松金 暁(マツカネアキラ)、オレは松金くんと呼んでいる。

 彼と昼間はオレの家の近くにあるメセナという世界的に有名なスポットで滑った。軽く汗を流した後、彼の喜びそうなスポットを案内した。数ヵ所周り、彼が滑りたいと話したスポットは昼間は交通量が多く、夜でないと滑れないスポットだった。そのため一旦自宅に戻り、明日に向けた最終確認を行い、松金くんと共に明日の成功を祝う前夜祭のような気持ちで越谷にあるフレンチレストランに向かった。

嵐の前の最期の晩餐会。松金 暁と私の息子。

嵐の前の最期の晩餐会。松金 暁と私の息子。

 おいしい食事とスケート談義、その後訪れる至福のスケートタイムに心躍らせる彼を見ているオレもまた、彼同様に翌日のREAL TOUGHNESSに向ける強い気持ちで心を満たしていた。
 気づくと時計の針は午後10時を回っていた。これが翌日に大きな仕事を控えている社会人であればすぐにでも帰路に着き就寝するところであるが、オレはスケートボーダー。そしてスケートを職業としている。家に帰ることなど毛頭考えていない。むしろスケートサウンドを体感し、更なるやる気とテンションを増幅させる方が自分をより奮起させられる。

 明日のREAL TOUGHNESSを前に「いっちょ先取りタフネスしようか!?」などと松金くんとジョークを交えつつスポットに向かった。
 ほどなくしてスケート仲間でもあり近所のショップ、ZIMBABWEの店長でもある多根くんもスポットに到着し、軽い挨拶と明日の意気込みを話つつ、3人でスケートを始めた。

 松金くんは水を得た魚のように、長いスロープとしても、飛び出しバンクとしても、マニュアル台としても使えるそのスポットで軽快なスケートサウンドを奏でていた。その瑞々しさ溢れる純粋な姿に感化されるオレ。そして4年前に尺骨骨折と足首の三角靭帯を同時負傷して以来大きな怪我をせずスケートライフを送っていたオレは、正直、スケートが調子良かった。すなわちオレなりの解釈ではあるが、俗に言う「乗れてる時」であった。

 ろくなストレッチもせずに、くわえタバコで軽くテールを叩きながら「何をしようかな」と考えていた。そこに飛び込んできたのが、大小のレールが溶接されたキンク部分がない落差のあるスクエアレールであった。高い方で30cmぐらい、低い方に至っては15cmぐらい、レールを繋ぎ合わせた合計の長さも2mほどの代物。

 「よし! ファーストトライはこのキンクなしキンクレールでボードスライドし、気持ち良くリズミカルにスライド音のコンボでも出してやろう」。
 そのレールはスロープに設置されてある。すなわち15cmの段差がついたダウンレールとなる。オレは安易な気持ちと、メイクすればパンパンパンと三拍子で、その後のスケートも気持ちいいものになるに違いないと、トリックバランスも考えずにボードをレールに乗せた。

 ファーストスライドからセカンドスライドへレールのギャップを超えた瞬間の、一瞬の出来事だった。背中、いや腰から猛烈な炎が身体中を駆け巡っているかのような熱さと、その後に腰を貫く痛みが頭の先まで貫いた。何が起こったのかわからない自分と、何が起こったか理解するよりも本能的危険信号が脳から身体全体に伝達するのがわかった。きっと鬼のような形相で歯を食いしばる自分がいたことを今に思えば想像しやすい。

 しかし、燃えるような熱さと痛みへの防御態勢をとるよりも、数時間後に始まる六本木ヒルズのイベントREAL TOUGHNESSのことが痛みを超えてオレの頭を支配した。
 「やばい。やばいぞ…」。腰がどうなっているかより、オレがREAL TOUGHNESSに行けなかったら、いったいどうなっちまうんだ!?
 司会進行、綿密な打ち合わせ、秒単位のスケジュール、それを理解し進行できるのは、今この日本でオレしかいない。
 オレは何をやってるんだ、このクソ野郎…。
 マズいぞ、身体は動くか? 痛みはどうだ!?
 まずは起き上がってみるか。ダメだ腰が動かねぇ~。痛ぇ~し、痺れてるし、ちくしょう、ちくしょう。いてぇ~ぞ馬鹿野郎。
 ここぐらいの意識からオレは声を発していたらしい。

 かぶっていたキャップを口の中に押し込み奥歯で噛みしめ、今持てるすべての気合いで起き上がろうとしたが、上半身は動くが下半身に力が入らない。ふうぅ~~ふうぅ~と動物のような叫びをあげながら何度か挑戦するも、やはり起き上がれない。

 「豪くん無理しないで下さい。横になったままでいてください」とふたりに言われる。「何としても起き上がらないといけないんだよ」と伝えるが、やはりダメだ。
 多根くんに肩をかり、松金くんに起こしてもらい「自力で立っていられるかを確認したい」とお願いしたが、ふたりが手を離した瞬間崩れ落ちるオレをまたも支えるふたり。
 この繰り返しを3回すると、オレの意識が遠のいてきた。全身から汗が噴き出し、目の前に白いもやがかかりだした。
 「やべ~多根ちゃん、落ちそうだオレ」。
 「救急車呼びますか?」
 「だな。何やっても無理だ。ごめん救急車頼む」。
 松金くん、本当にごめん。松金くんは愛知から350kmの道のりを移動し、1日ずっと楽しみにしていたスポットをわずか10分にも満たないスケートタイムで幕を閉じることになってしまった。オレの舐めたスケートへの態度のおかげでね。

 12月、冬の寒さで冷たくなったアスファルトに横たわり明日のことしか考えれない自分と、それに打ち勝つことができないかと必死に痛みの確認をし、悶絶するオレを運ぶべく救急車が到着したのは間もなく午前を迎える刻であった。

 事情を説明するふたりに申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、ストレッチャーに乗せられ救急病院へ搬送された。
 果たしてオレの腰はどうなってるんだ? REAL TOUGHNESSに行くことができるのか!?

続く。


追記:初のサンフランシスコ、わずか5日間、誰も頼ることなく自分でリサーチし、これだけの映像を残せるスキルを持つ松金 暁。彼の最上級の楽しみをわずか10分で奪ってしまったこと、まずは松金くんに謝罪します。ごめんなさい。そしてひとりタフネスの謝罪はまだまだ続きます。

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