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高齢者施設にスケートパークを。そんな常識破りの構想を実現させたのは、特別養護老人ホーム 栗林荘の統括施設長・篠崎一弘と、パークビルドのプロフェッショナル集団であるMBM PARKBUILDERSの会長・木村将人。これは高齢者施設のあり方だけでなく、街づくりやスケートコミュニティのこれからを考えるうえでも大きな問いを投げかける異例の取り組み。既存の枠組みを打ち破り、「意図と偶発が優しく混じり合う場所」を生み出そうとする挑戦と、その根底にある深い理念に迫る。
──特別養護老人ホーム 栗林荘

2025.10.03

[ JAPANESE / ENGLISH ]

Special thanks_MBM Parkbuilders

VHSMAG(以下V): まずは篠崎さんの自己紹介をお願いします。

篠崎一弘(以下S): 現在は統括施設長という立場で働いています。もともとは土木系の仕事をしていたんですが、30歳のときに「これからは高齢化社会だし、ちょっとやってみるか」くらいの軽い気持ちで福祉の世界に飛び込みました。当時は建設業界も不景気で、ゼネコンやスーパーゼネコンが中堅どころの仕事を奪うような状況で、自分の仕事も先が見えなくなっていたんです。それでこの業界に入ったんですけど、うちの施設はわかりやすく言えば「地獄」みたいな場所で…。お年寄りはベッドの上で食事をしていたりとか、車椅子に拘束されていたりとか、ベッドに縛られていたりとか。土曜日か日曜日に面接に来た記憶があるんですけど、正面玄関を入ったときに薄暗くて「シーン」じゃなくて「キン」としていたんですよ。帰ろうかと思いましたけど、大人なんで一応面接は受けました。それで実際に働き始めたら、確か月曜日と木曜日が入浴日で100人とか入浴するんですよ。機械浴で寝たまま入るタイプの風呂を使って、9時から17時の間に100人。計算するとひとり当たり部屋から出て戻るまで7分程度しかない。そんな時間でちゃんとした入浴なんて無理じゃないですか。しかも真冬の廊下は寒くて、利用者さんたちはバスタオル1枚で車椅子に座らされて裸でずらっと並んでるんです。「余生を楽しく過ごす」なんてイメージとは真逆の世界。おむつも定時にならないと替えてもらえない。結構ショックを受けました。

V: それはいつ頃の話ですか?

S: 20年くらい前です。

木村将人(以下K): 20年? ここってそんな前からあるんですか?

S: この施設はできてからもう50年になります。日本でも50年前の施設をここまで活用してる例はほとんどないんじゃないでしょうか。この建物は当時のものをリニューアルして使っているので。そういう意味でも社会的にすごく意義のある取り組みだと思っています。以前は全体の3/4くらいを補助金でまかなっていたそうなんですが、そういう建物はだいたい取り壊して更地にして新しく横に建て直したり、そのまま放置されたりするんですよ。でも補助金ってみなさんの税金ですし、せっかく公のお金が入っているなら、それを活かしていくべきじゃないかと。だからこそちゃんと耐震診断もして、安全面もしっかり確保した上で、この建物にもう一度価値を持たせようというのが今回のチャレンジでもあります。昭和51年に建てられたこの施設を、今だけじゃなくて、これから20年、30年と使っていけるような価値ある空間に再生するのがポイントだと思っています。

V: ちなみに、こういった複合型の老人ホームって他にも事例はあるんでしょうか?

S: うちは「特別養護老人ホーム」というカテゴリーになるんですけど、正直、こういった複合型の形態は他には例がないと思います。たとえば障害のある方の雇用の場を併設している施設だったり、東京からの移住者を受け入れるような場所…有名なところだと「シェア金沢」みたいな大規模な施設はあります。でもどちらかというと高齢者向けや、都市部から移住してきた人向け、あるいは病院併設型の施設というパターンが多いですね。うちのように要介護度の高い方が多く入所している特別養護老人ホームで、ここまで多機能な取り組みをしている例は他にないと思います。将来的にはこうしたモデルを参考にする施設が増えていくんじゃないかと思っています。

 

スケートパークは特別養護老人ホームとは概念的に一番遠い存在だと思ったんです
篠崎一弘

V: そもそも、どうしてこの特別養護老人ホームにスケートパークをつくろうと思われたんですか?

S: まず前提として、自分のなかでは「建物 5:外構 5」くらいが理想だと思ってるんです。でも実際には今「外構 6:建物 4」くらいの感覚です。なぜかというと、施設のイメージって建物じゃなくて圧倒的に外がつくるものだと思っていて。だから外構の設計を担当してくれた方には最初にこうお願いしたんです。「2度見する場所にしてください」って。すごく抽象的ですけど、道を歩いていて思わず目がいくような、無意識に興味を惹かれるような場所にしたかったんです。老人ホームって、別に看板がなくても人が見れば「あ、老人ホームだな」ってわかるんですよ。でも私たちが目指しているのは「えっ、ここ何?」って思わせるような施設。そういう意味でも、スケートパークは特別養護老人ホームとは概念的に一番遠い存在だと思ったんですよ。もちろん施設の敷地内には他にもパン屋やバスケットコートがあります。でもそういうコンテンツには対象者がいる。パン屋で言えば、介護士が本気になってしまってフランスからレンガを取り寄せて薪窯まで導入してしまったり(笑)。ヨガ教室も職員がやったり。みんなが自分のやりたいことを実現していけるように、施設内のいろんな取り組みを職員の自己実現の延長線上でつくっているんです。そのうえで、たとえば東京藝大卒のうちの介護スタッフが施設のマップをつくってくれているんですが、それもきちんと業務委託契約して報酬として払ってます。外部発注じゃなくて、内部の人と契約して経済が循環する仕組みをつくっているんです。そしてその流れのなかで、あえて特定の対象者がいない、つまり老人ホームのイメージと真逆にあるスケートパークを取り入れました。多くの人が「老人ホーム=安心・安全・穏やかな暮らし」と思いがちです。もちろんそれも大事ですけど、私は波風立たない生活が理想だとは思っていません。怒ったり、笑ったり、感情を出せることのほうがよっぽど豊かだと思っていて。食事も同じで、うちは管理栄養士の言うとおりに全部決められた食事じゃなくて選べるんです。おじいちゃんが「ペペロンチーノが食べたい」って言ったら、厨房でつくってすぐ出せます。私自身はスケートもスノボもサーフィンもしません。バスケが好きでずっとやってきた人間ですけど、それでもスケートボードに感じる「自由」や「チャレンジ」の精神って今のこの施設にすごく必要だと思ったんです。ちなみにこれは東京オリンピックをきっかけに始めたことではありません。もう10年以上前から「スケートパークを取り入れたい」と言い続けてきましたから。

 

V: そんなアイデアを聞いたとき、木村さんはどんな反応だったんですか?

K: 「ふざけてんのかよ」って思いましたね。本当に。「大丈夫ですか?」って(笑)。

S: めちゃめちゃ真剣です。どんな手を使ってもやり切ろうと思ってましたから(笑)。

V: どういう経緯でMBMさんに依頼することになったんですか?

S: 外構設計を担当してくれたのは愛知県立芸術大学の水津先生という方なんです。ただ当然ながら、先生もこれまでスケートパークなんて設計したことがない。いろんな空間設計を手がけている方なんですけど、さすがにこれは初めてだったんです。それで、小山(栃木県)にOSSYスケートパークという場所があるのをネットで見つけて、「これは参考になるかも」と思って利用者さんを連れて見学に行ってみたんです。でもホームページでは「365日中363日営業」って書いてあるのに、タイミングが悪かったようでいつ行っても誰もいない(笑)。それで何度か通って待っていたら、夕方6時くらいに親子っぽい人たちがふらっと来たんです。「もしかしてこの人かな?」と思って声をかけたら、案の定そのスケートパークの方で。すぐにノートパソコンを開いて、画面を見せながら「実はこういう施設でスケートパークをつくりたいんです。ぜひ協力してもらえませんか?」ってお願いしたんです。そしたら、なんと「協力しますよ」って快く言ってくれて。でも実際にはやっぱり誰もスケートパークのつくり方がわからない。水津先生も初めてのことなので手探り状態。となると次の課題は施工ですよね。でもこれがまた特殊すぎて、普通の業者ではできない。そこでいろんな人を通じてたどり着いたのが、最終的にMBMさんだったんです。

K: 「こんなの坂ひとつあれば十分じゃん」って思ってたんです。そしたらOSSYの押田さんが「いや、こういうのがいいんです」ってプランを見せてくれて。正直「こんなの本当にここにつくったら大変なことになるよ!」って感じだったんですけど。でも結局、そのプランで進めることになったんですよね。でもいまだにどういう使い方するのかがちょっとわからない(笑)。

S: うちの施設づくりの根底にあるのは、「意図と偶発が優しく混じり合う場所」というイメージなんです。たとえばよくある話で、「老人ホームに子どもが来てくれたらいいな」という声がありますよね。すると保育園を併設して交流させようとする。でもそれって「何が面白いんですか?」って話。別に見ても何も楽しくないお遊戯を見せられる利用者もいるだろうし、そもそも「お年寄りは子どもが好き」っていう前提でつくられている仕組みもちょっと押しつけがましいですよね。それよりも、意図せず偶然に生まれる出来事のほうがずっと面白い。たとえばただの食堂をつくっただけなのに「ここでダンスしてもいいですか?」って人が現れる。そんな想定外が起こる余地を残しておくのが大事だと思っているんです。今回のスケートパークに関してもそう。OSSYの押田さんにはスクールをやってもらえたらいいなとは思っているんですけど、あまり「こういうふうに使ってください」って決め込むつもりはないんです。以前、前の通りをスケボーを持った子どもたちが自転車で通ってるのを見かけたんです。ということは、どこかに行く途中か、どこかから帰ってくる途中なんですよね。そういう子たちが、もしここにスケートパークがあるって知ったら、自然と立ち寄るようになるかもしれない。意図的に「スクールをやりたい」とか「イベントを企画したい」というよりも、「あ、ここにあるんだ」と気づいて、勝手に人が集まりはじめて、勝手に利用者との交流が生まれる。そういう自然発生的な流れのほうが、私は面白いと思っているんです。さっきも言いましたけど、高齢者とスケートボードをするような若者って概念的にめちゃくちゃ遠い存在ですよね。普段、接点なんてほとんどないんですよ。

K: たしかにそうですよね。ここに来たことで、利用者さんが本来なら絶対に会うはずのないような人と出会って交わっていくっていう。その発想自体がすごいよね。しかも、それにあんだけお金かけんのもすごいですけどね(笑)。

S: いやいや。メインですから。誰がなんと言うと、反対されても最後までこの案を残したんで。

V: 反対意見はあったんですか?

S: いや、反対というか違う視点からの提案がありました。外構の設計を担当してくださった方が、レンガの小道を奥まで引き込むというプランを提案してくれたんです。それによって高齢者の暮らしがより豊かになる、という考えからだったと思いますし、確かにその発想には温かさがあって素敵だなと思いました。ただ私は、「それがこの場所にとって本当に最適な豊かさなのか?」と感じてしまって。レンガの小道はよく見かけるものですし、もっとこの場所ならではの面白さや出来事が生まれるような空間にできるんじゃないか、という思いがあったんです。そういう思いから、「私はこういう形のほうがいいと思う」と率直に伝えました。その設計者の方とは日頃からとても仲が良く、私にとっては本当に尊敬している方なんです。だからこそ、そういった方と真剣に意見を交わしながら一緒に場をつくっていけたことは、私にとってすごく貴重な経験でしたし、ありがたいことだと思っています。

K: 外構の設計者の方はかなり有名な方なんですよね。でもやっぱりスケートパークって今までつくったことがないから、どんなふうにできあがるのか、どんなものが生まれるのかって、想像がつかないんですよね。だから打ち合わせしていても、ちょっとちんぷんかんぷんなところがあって。でも実際に完成したのを見たら、たぶん感動しかないと思うんですよ。それを見るのが結構好きなんですよね。

S: ラインが美しいんですよね。昨日も仕上げに見惚れてましたもん。職人さんから「こいつ何だ」って思われていたかもしれませんけど(笑)。

スケーターの回遊性と入居者の動線、室内からの景観をうまく合わせた
木村将人

V: 施工に関してはこれまでのスケートパーク建設とは全然環境が違ったと思いますが、懸念していたこととかありましたか?

K: 設計者からのレンガの小道を引き込みたいという話はなくなったんですけど、動線としての機能は残しています。だから本来ボウルにしちゃえばパークの回遊性ができるんですけど、それをつくらずに人が通れるようにするとか。そして部屋から見たときに何もないと不自然だから3連のモーグルを置いたり。これは初の試みなんですけど。だからスケーターの回遊性と入居者の動線、室内からの景観をうまく合わせた感じですね。

 

S: さっき言った概念的に遠いっていう話にも繋がると思いますけど、ここは特別養護老人ホームなんで入居している方の要介護度も4とか5なんです。寝たきりだったり、全然歩けなかったりする方もいらっしゃるんですよね。施設内にカフェをつくったときも、認知症であったり、体が不自由な方でも働けるように設計していて。カウンターの台をあえて低くしたり、車椅子のまま入れるようにしたりして、できる限り参加できる工夫をしてきました。とはいえ、カフェの仕事もできないくらい体が動かない方もいらっしゃるんですよ。でもそういう方でも、耳は聞こえるし、目も見えるんです。子どもたちが挑戦している姿とか、スケートで誰かがトライしている姿をベッドや車いすの上からでも見て感じることができる。体が不自由な人でも絶対に感動したりとか楽しめると思っているんですよ。最後まで。そういう絵が浮かぶんですよ。身体が元気でチャレンジできる若い子たちと、もう自分では動けなくなった高齢の方たちが同じ空間にいる。その空気を一緒に感じられる場所。そういう場がつくれるのって、うちみたいな施設しかできないと思うんですよ。だから本気でつくりたかったんです。

 

V: 現時点での入居者の反応はいかがですか?

S: 楽しみにしてくれていますよ。絶対に喜んでくれると確信しています。それは単に見ているだけじゃなくて、「チャレンジしている誰かを応援したり、見守る」という立場になれるからなんです。これってすごく大事な視点で。高齢者って「介護される側」ってイメージがどうしても強くなると思うんですけど、そうじゃなくて、自分が誰かを見守る側にもなれる可能性がある。それってすごく大きなことなんですよ。うちにも元保育士の利用者さんがいるんですけど、施設に子どもが来るようになったら自然と泣いている子を抱き上げたりしてくれたんです。誰かが転んだときも、きっと「大丈夫?」って声をかけるような場面が自然と生まれると思うんです。そういう姿って本当に尊いと思うんです。よく「手厚い介護があれば幸せ」って言われることもありますが、私はそうは思っていません。人間って、何歳になっても「誰かの役に立っている」と感じられることが幸せなんです。私も同じです。誰かのためになっていると思えるから、寝る間を惜しんででも仕事ができる。人間の本質ってそういうところにあるんだと思います。だからうちでは90代の利用者さんが手づくりのブローチをつくって、実際にお店で販売したりしています。「自分が何かをつくって、誰かに喜ばれて、お金が動いた」という経験がその人のなかにちゃんと意味として残るんです。つまり、世間的には「見守られる存在」と思われがちな高齢者が、見方を変えればちゃんと誰かに「与える側」にもなれるんですよ。

K: やっぱりアツい人とじゃないと一緒に仕事はできないと思うんですよ。今ってスケートパーク事業にもいろんな人が関わっているじゃないですか。たとえばスケートもしないのに「とりあえず物だけ置いとけば金になる」みたいな考え方でやっている人たちとか。正直、篠崎さんはそういう人たちとは一緒に仕事できないと思うんですよ。自分たちが今回一緒にやっているのって、たぶん巡り合わせだと思うんですよね。情熱がある人同士だからこそ、「めんどくさそうな現場」じゃなくて「面白そうなことができそうな場所」に見えるし、もっと良くしたいって気持ちが出てくる。「とりあえず今日1日適当にやって、夜は飲みに行けりゃいいや」みたいな人だったら、たぶん合わなかったと思うんです。そこはすごく感じましたね。

V: 高齢者とスケーターが交わる空間づくりのやりがいはどこに感じていますか?

K: やっぱり、ただ「施される側」だった人が、今度は「応援する側」になっていくっていう。ありがとうと言い合いながら支え合う関係ですね。そういう感覚を持てる人はなかなかいないじゃないですか。私もパークビルドをやりながら、少しずつ資金を入れて大会を開催したり、団体をつくって選手をサポートして海外遠征に連れて行ったりしています。そういう考え方って、単にスケートボードを売って儲けるだけじゃない地元のショップの人たちとも通じると思うんですよ。昼間は普通に働いて、夕方に時間をつくってパークを100円や200円で開放してあげる。そういう思いがある人たちに近い気がします。自分が好きだからこそ、みんなにも楽しんでもらいたい。身体が思うように動かなくても、頑張っているみんなを応援したい。毎日パークに行くのが楽しみで「あの子、うまくなったな」と感じられたらうれしいんです。そういう気持ちを大事にして生きていきたいですね。

V: この場所は老人ホームのあり方にとってもスケートコミュニティにとっても異例な取り組みだと思います。今後どんな影響を与えると思いますか?

S: 高齢者施設という枠内では、おそらく圧倒的にアンチが増えると思います。保守的な世界なので(笑)。

K: でもアンチ半分羨ましいの半分ですよね。たぶん文句言うヤツって大体羨ましいと思っているんですよ。

V: 高齢者とスケーターという概念的に遠い存在が交流できるっていうこのモデルケースが成功したら街づくりのあり方も変わってくるような気がします。

S: 私はお年寄りを最優先に考えてやっているので、彼らが恩恵を受けるのは当然だと思っています。ただ施設全体としての在り方は与える場所であり、ここを訪れる人みんなが良くないとダメなんです。うちは「当事者化」という言葉を使っているのですが、ただうちの施設に共感してくれたり、「いいね」をしてくれるだけでは意味がなくて、ひとりでも「自分ごと」として行動してくれる人が入ってきてほしいと思っています。これがコンセプトのすべてです。たとえば、子どもたちやお母さんが過ごせる場所をつくっても、「こんなところ使っていいの?」という受け身の姿勢で来る人が多い。でも「いや、あなたが使うんですよ」「あなたがどうしたいかをここで全部出してほしい」という前提があって、それが一番大事なんです。実は高齢者施設としての影響や見え方はまったく考えていません。世の中がどう変わるか、影響も考えてはいません。もしかしたらうちがモデルケースになって、スケートパークやカフェ、パン屋などが高齢者施設に増えるかもしれませんが、そこに価値はないと思っています。というのも良いモデルケースができて制度化されると、みんなが思考停止でそれに従うだけになって、形骸化してしまうんです。要は「真似する」ことが目的化されてしまう。だからこの施設のプロセス、「どんな想いで始めたのか」「誰がどう関わって形にしたのか」という過程そのものにこそ価値があると考えています。同じような形をつくったとしても、そこに思いや関係性がなければ、私たちがここで感じているような面白さや化学反応は、きっと起きないと思うんです。ただこういう話を続けていけば、理解してくれる人は増えると思いますし、業界全体が良くなってほしいと思っています。介護業界はネガティブなニュースが多いですが、私は「介護員が大変」とか言われるのが嫌で、嫌なら辞めればいいとさえ思っています。熱意を持って好きでやっている人たちも大勢いるのに、介護は犠牲を伴うもの、介護職は頑張っていて偉いとか、そういうのは大嫌いです。この仕事は自分が好きでやっているものなので、介護スタッフは輝くべきだし、介護は本当にクリエイティブで楽しいと思われる業界に変えていきたいと本気で思っています。そういった思いがある一方で、私は誰かに影響を与えようといった気持ちはなくて、自分がやりたいことを実現し、それを社会がどう見るかを楽しみにしているというのが本音ですね。

この場所をつくっていて思ったのが、「スケボーしない人が見るパーク」って視点も大事だなってこと
木村将人

V: 木村さんはMBMでこれまでもいろんな形のパークをつくってきたじゃないですか。この場所は今後のパークビルドにどんな影響を及ぼすと思いますか?

K: これ言うと怒られるかもしれないけど…正直、もうコンペティションパークって国内にはそんなにいらないでしょ。みんな「世界戦やりたい」って言うけど、日本にそのためのパークが10個できたとして「年間10回も世界戦やるの?」って話じゃないですか。実際には年に1回とか2回。それなら特設でつくるか、ひとつふたつあれば十分なんじゃないかって。だからパークのあり方も変わってきていいと思うんです。今回この場所をつくっていて思ったのが、「スケボーしない人が見るパーク」って視点も大事だなってこと。たとえば東京都内にあるようなおしゃれな公園。そういう公園の中に、1セクションだけでも「スケボーやってもいいよ」って場所があったらどうだろうって考えたんです。大理石のベンチがあって、下に照明が仕込まれていて、夜もキレイで。そこでスケボーしてる子どもがいて、おじいちゃんおばあちゃんが立ち止まって「何やってんの? すごいね」って声かけたり。そんな風景がイメージできたんですよね、今回つくっているときに。もちろん全部をスケートパークでやるのは危ないけど、たとえば「〇〇区の△△公園の一角だけOK」みたいにして、そこにちょっとしたセクションがある。池袋のどっかとか、そういうところにちょっとしたアールをひとつつくって、「ここからここまではOK。ここから先はNG」みたいなルールがあればいい。そこで一生懸命トリックに挑戦している人がいて、横で大人がタバコを吸いながら「いいね、それ! もう1回やってみな」って声かけたり。スケートボードのイメージも、もっと変わっていくべきだと思うんですよ。「スケボーやってるヤツ怖そうだな、やめとこ」じゃなくて、「スケボーやってる、ちょっと見てみようか」って。リフティングしてる子やバスケしてる子を見るのと同じように、スケボーも自然にそこにある感じにしたい。何千万もかけてどーんとパークを建てるんじゃなくて、「この一角でちょっとだけやりたい」っていう活動を、スケート業界全体でやっていけたらいいなと思ってます。

本人が関われて、地域の人も関われて、しかも利用者がその中心にいられる。そういうのって普通の老人ホームじゃ絶対に味わえないこと
篠崎一弘

V: すでに触れられてはいますが、改めてこの施設が完成したときにどんな風景を思い描いてますか?

S: イベントってあんまり好きじゃないんですよ。私は日常がそうなってほしいと思っていて。結局、何が大事かって言うと出会いしかないと思うんです。建物が立派とか、施設がすごいとか、そういうのは本質じゃない。そこに価値があるわけじゃなくて、人と人が出会って生まれる幸せ、偶発的な出会いが日常的に起こり続ける場所にしたいんです。そうやって出会った人たちが、他人じゃなくて当事者になっていくことが私たちの目指すことなんです。最近面白いのは、「英会話教室をやりたい」じゃなくて、「お年寄りと日常的に英語でしゃべりたい」って人が出てきたり、足湯で英会話が始まったり(笑)。意味がわからないことが自然と起きているんですよ。もちろん意図していることもあります。こういう場所をつくるにあたって、誰よりも深く、何周も考えて「どういう空間にしよう」「何をここに置こう」ってやってきていますから。でも結局一番面白いのは、意図していないことなんです。チープな言葉で言えば「多様性」ってことになるのかもしれないけど、いろんな人が関わり続けて、どんどん当事者化していく。ゲストじゃなくなって、誰かのアイデアで、誰かの行動で、自然と新しいことが生まれていく。そしてその人たちが自走していく未来。それを想像しています。誰しも心のなかに「何かやってみたい」ってくすぶっている気持ちがあると思うんです。それをここで引き出せるようにしたい。私たちは「全部用意しました、どうぞ」じゃなくて、一緒につくり上げる。それが私の役目だと思っています。「できない人」と一緒にやる。でも、「あなたがやるんですよ」「あなたが当事者になるんですよ」っていう。うちのルールはひとつだけ。「利用者が関わっていいこと」。それだけです。「ここは関係者だけです、利用者は入らないでください」なんて、うちでは絶対にNG。本人が関われて、地域の人も関われて、しかも利用者がその中心にいられる。そういうのって普通の老人ホームじゃ絶対に味わえないことじゃないですか。たとえばこのスケートパーク。普通なら利用者は関われないですよ。でもここではそれが日常的に起きている。だって我々だって、年齢を重ねるごとに新しい刺激が減っていくじゃないですか。だからこそそれをつくり続けたいと思っています。あとね、うちには迷い込んだ犬がいて、今では職員が勝手に飼っているんですよ(笑)。Amazonでエサ買って、普通にお金もかかるんですけど職員は「まあ、篠崎は許すでしょ」って思ってやっている。それでその犬がアイドルみたいにすごい人気者になっているんですよ。ラブラドールで名前はラブちゃん。職員が家に連れて帰って、一緒に海に行ってる動画とかを送ってくるんですよ、私のスマホに(笑)。でも3ヵ月後に飼い主が見つかって、家に送っていったんですよ。でもラブちゃん、全然車から降りなかったらしいんです。それでうちでそのまま飼うことになって。飼い主も「そっちの方がいいなら」って言ってくれて。こういう「自然発生」がいいなと思うんです。だから「アニマルセラピーやっているんですね」って言われると、ちょっと違和感がありますね。「いやいや、ただ犬がいて、お年寄りと一緒にいるだけなんですけど」って(笑)。変な言葉を当てはめるから嘘っぽくなるんですよね。

V: この場所を起点にいろんな関わりが偶発的に生まれるんですね。

S: この場所はあくまできっかけなんです。大事なのは、ここを使う当事者たちが自分たちで動き出して自走していくこと。そのための場なんですよ。それと…私が一番好きな場所、言ってもいいですか? 入口の通路にミニランプがあるんですよ。そこがうちのすべてなんです。全部がそこに集約されています。うちは地域とちゃんと繋がる施設じゃないと意味がないと思っているんです。建物をつくって終わりじゃなくて、地域の人たちのケアを支え合って、一緒に生きていける関係性をつくっていくことが大事だと思っているんですね。だからレンガの小道を引き込んで地域とつながる道をちゃんとつくって、そのメイン通りにミニランプがあるんです。この場所の重要性、わかってもらえますか? たとえばミニランプで滑っている子どもたちがいて、地域の人やお年寄りがその道を歩いてきたら上で足を止める…そんな光景を思い描いているんです。練習していても、それを優先するみたいな。ここがまさに地域の人とか利用者とかスケーターとの交点になる。普通だったらミニランプって人が通らないところに置くじゃないですか? でも、あえて邪魔になる場所に置いているんです。ここがね、私にとって一番重要な場所なんです。何年もかけて全体をつくってきたなかで、やっぱりここが一番大事。これがなかったらこの施設に意味はないと思ってるくらい。誰が何を言おうとここがすべてなんです。この場所が施設という概念を壊す象徴なんです。

 

K: そんな意図があるなんて思わなかった(笑)。

S: 基本的には木村さんが「これがいい」と思ったものをつくるっていうのが本当の理念なんです。それって当事者化するってことですから。木村さんとか、実際につくってくれる人たちが「これ面白いじゃん」って感じてくれたらそれが一番いいんです。逆にもし「なんか不満だな…」って気持ちでつくられちゃったら私の負けなんです。これは心から思っているんですよ。外構の設計者にも、建物の設計者にも、そして現場で働くスタッフにも、みんなに対してそう思っています。でもここだけは絶対に譲れなかった。ここがうちを象徴している場なんです。お年寄りとか地域の人とかが歩いてくると、そこのスケボー少年たちが通るのを待つみたいな。この絵、最高じゃないですか。実はね、私は生まれ変わったらスケボーやってみたいんですよ。本気で!! だって、かっこいいじゃないですか。この話を娘にしたら「マジでやめて」ってガチのトーンで言われちゃいましたよ(笑)。

 


MBM Parkbuilders
@mbm_parkbuilders

茨城県を拠点とする、作業員が全員スケーターのスケートパーク専門の建設会社。スケーターの目線に立ったアプローチでのパークビルドに定評がある。全国各地でつねに工事はフル稼働。これまでに手掛けたスケートパークは数しれず。

特別養護老人ホーム 栗林荘
住所: 栃木県小山市大字塚崎463-1
WEB:ritsurinsou.or.jp

1970年代初頭に開設された歴史ある老人ホーム。これまでに5度の増築を重ねながら進化を続け、今回スケートパークを導入するという前例のない挑戦を実現。施設内にはヨガ教室、ベーカリー、カラオケ、バスケットコート、スナック、サウナなど多彩なコンテンツを完備。入居者と地域住民、さらには異世代の交流が生まれる未来型のコミュニティハブとして注目を集めている。

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