ONLINE STORE

SONIC CUP 2025

VHSMAG · VHSMIX vol.31 by YUNGJINNN

POPULAR

謎の電話ボックス

2025.12.09

RYOTA ANJIKI / 安喰涼太

2025.12.10

ローカルビデオ

2025.12.08

ABD(ABD)

2025.12.11

ADIDAS SKATEBOARDING /// OKWR TOUR UMIKAZE

2025.12.09

フィルマー目線

2025.12.12

CHRIS JOSLIN - G-MA

2025.12.11

大きなお世話…

2025.12.05
SONIC CUP 2025
  • XLARGE

PAGERTOYKO
ADIDAS SKATEBOARDING

スケートボードはスポーツか否かを妄想する
──第32回:HIPでHOP

2025.11.26

 「スケートボードはスポーツか?」
 携帯で適当にネットサーフィンをしていたら、そんな記事を目にした。読んでみたら、そのライターの見解では、どちらかというとスケートボードはスポーツではないという結論に至っていた。別にスケートボードがスポーツとして見られる側面を否定しているわけでもなく、ただカルチャーとしての要素が根元となっているため、といった解釈に収まっていた。やはり、抽象的な解釈でしか説明せざるをえないのだろうか。
 僕自信は、スケートボードがスポーツだろうとスポーツじゃなかろうと別にどちらでもいい、という気持ちである。本人や見ている人が自由に解釈すればそれでいいと思う。ただ、僕自身はスケートボードはやはりスポーツではないと思っている。というか、僕は2ヵ月ほど前からスケボーの撮影を7年振りに再開し、スケートスイッチが完全に入ってしまっている。で、過去から現在にいたるまで、スケートボードをスポーツとしてやっているかと言えば、0%。まったくそう思っていない。
 なぜか? まあ、どちらでもいいのだが、なぜスケートボードはスポーツではないか、はっきりとした定義があるのか? もしくは、それを抽象的ではなく説明できるか? それを5分程真剣に考えてみた。
 結果、やはり「スケートボードはスポーツではない」という結論に至った。
 なぜか? それは「メイン、スイッチ、フェイキー、ノーリー」という概念があり、それが表現の一部、評価の一部になっているからだ、と。つまり「最適で最高の結果を求めるのではなく、本来悪条件で不利な状況も表現、評価の対象になる」が、スケートボードに当てはまるからだ。
 一般的なスポーツでは、それが当てはまらないのではないか? たとえば野球では右利きのピッチャーがあえて左で投げることはしないだろう。ホームランを打ちたい場面で、右バッターが左の打席に入ることはないだろう。つまり、スポーツはつねに最高のパフォーマンスを競い合うわけである。スケートボードの大会も確かにパフォーマンスを競い合う。ただ、メイン以外の不利な状態での技が得点となり、評価される。そこが他のスポーツと大きく異なる点ではないだろうか? スポーツとは、一般的にスケートボードでいうところの「メインスタンス」が基本となっている。あえてスイッチスタンスなどで競い合うスポーツなどあるのか? わからない? あるのかも知れない。と、そんなことをソファで寝転びながらチョコチップクッキーを食べていたら、妄想が止まらなくなってしまった。

 世界陸上100m走決勝。場内は大歓声に包まれていた。会場は東京。「次郎! 次郎! 次郎!!!」と、次郎コールに包まれていた。金子次郎。彼は昨年の全日本陸上大会において、日本人として最速の9秒63を叩き出し、陸上会に激震を走らせ、メディアもこぞって騒ぎたてた。新聞の一面にも取り上げられた。

 

「コサイン・ボルトもオーマイゴット!!! 函館出身謎の男。日本人最速達成!!!」

 それまで無名だった男が、たったその一走で業界を揺るがした。国内で彼は「アイヌのチーター」と呼ばれるようになった。歓声が収まり、会場は静けさに一変した。日本人初の金メダルが期待され、世紀の瞬間をみんなが期待していた。次郎は第5レーン。手首、足首をぐるぐると回し、首も上下左右に揺らす。しかし、視線はゴール地点をそらすことなく睨みつけ、鋭い眼光がレーザービームの如く光っている。瞼も5つ重くらいになっている。
 全走者が、スタートラインに歩み始めた。スターティングロックに足を納め、しっかりと固定。手の親指と人差し指をスタートラインに合わせる。が、次郎はまだ立ったままだ。会場が少しどよめく。次郎はゆっくりと動いた。まずスターティングロックに手を添えた。そして、足をスタートラインに合わせる。会場のどよめきが、罵声に変わり始めた。「次郎!!! 何やってんだ! 頭おかしくなったか!!!」。次郎のメインスポンサー「ユニシロ」の会長も泡を吹きそうな表情となっている。スターターも、動揺の表情を隠せてないが、進行せざる終えない。

 

 「オンユアマーク、セット」。全走者が、きれいなクラウチングスタートの体制となった。ただ、次郎だけは違った。みんなと反対方向を向き、ゴール方向へ向け大きくケツを突き上げた。

「パン!!!」

 スタートのピストルが会場に鳴り響いた。全走者が一斉にスタートした。やはり、コサイン・ボルトが群を抜いている。50m付近でもう独走状態だ。ゴール手前では、すでに余裕の走りで会場に向け手を振っている。2位走者に大きく差をつけ、断トツでゴール。タイムは9秒70だった。最後まで力を抜かなければ、確実に9.6秒台だ。ただ、これもコサイン・ボルト恒例のパフォーマンスのひとつだ。コサイン・ボルトは会場に向け「サイン、コサイン、タンジェント!!!」と叫び、国旗を天に掲げた。

 

 一方、次郎はまだ60m付近を走っていた。後ろ向きのバックの状態で。会場は呆れていた。コサイン・ボルトも、オーマイゴットのジェスチャーで苦笑いだ。次郎はバックの状態でゴール。タイムは16秒39だった。会場は次郎の、いや日本人初の快挙に期待を寄せていた日本人ファンによる罵声が飛びかった。

 「普通に走れ! 普通に走れ! 普通に走れ!!!」

 ただ、次郎は興奮しまくり大きく拳をあげ、ガッツポーズをしていた。「父ちゃん、母ちゃん、オレやったよ! 応援してくれてたみんなありがとう!!!」 次郎は雄叫びをあげ、号泣していた。
 その日以来、業界、メディアは一切次郎を取り上げず、話題にすることもなくなった。ユニシロもその日に即、次郎との契約を解除した。ただ、不思議な現象も起こっていた。この陸上業界において、忘れさりたい異常事件となったこの次郎の行動が、とある業界でフィーバーしていた。それはストリートカルチャーだった。特にスケートボードの業界で次郎はバズッた。スケボーのビデオでも、この次郎の走りがパートの一部に切り抜かれ、リメイクされることもあった。カルチャー誌からも記事のオファーが殺到した。Hip-Hop業界では、「これが本当のHip-Hop」と称賛された。レーザーディスクスケートボードMAGというスケートメディアから、次郎のケツを突き上げたスタートの時の写真を使用したシグネチャーデッキも販売された。
 次郎は現在スケートボードをするようになり、フェイキーから2回転をする、次郎キャバレリアルという新たな挑戦に挑んでいるそうだ。
 と、そんな妄想をしていたら、チョコチップクッキーは、もう空になっていた。

 「スケートボードはスポーツではなく、スケートボードという表現だ」というのが僕の答えだ。ただ、スケートボードにはひとつだけ最重要ルールがある。それは、「カッケー」くないと周りから支持されない。また、その「カッケー」は、人によりまったく解釈が違う。





 

kanekosou.stores.jp

DESHI

旅とドトールと読書をこよなく愛する吟遊詩人。 “我以外はすべて師匠なり”が座右の銘。

コラム一覧:www.vhsmag.com/column/deshi/

  • BRIXTON
  • DC SHOES