スケーターの天敵である梅雨が近付き、憂鬱になっていた5月下旬頃の話。家で休んでいると、机に置いてある携帯電話が震えた。画面には“オグくん”と表示されている。ER Magazine編集長の小椋くんからの電話だった。「どうしたんだろうな」と思い電話に出ると、「(荒川)晋作くんから聞いたけど特集やりたいんやってな! やろうよ」と告げられ、フォトグラファーの荒川晋作くんとのツアー中に「ERにはあんまり出たこと無いし特集ができたらいいですね」と何気なく言った記憶が蘇って来た。少し驚いたが「いいですね~!やりましょう」とふたつ返事で返した。
これは後から聞いた話なんだけど、岡本侑也くんの特集が骨折のためにできなくなり、代わりに僕の特集の話が浮上したそうだ。そのため、写真の納期は1ヵ月以内。晋作くんに電話をし確認すると、東京に来るのはその1ヵ月の内の1週間程、しかも6月の梅雨真っ只中だった。僕が京都に行けばいい話なのだが、仕事が忙しくて時間を作れそうにない。ということは、その1週間ですべての写真を撮らなければならないということになる。
中途半端な特集は作りたくないので、晋作くんが来るまでの間、どこで何を撮るかをひたすら考えていた。
そして短期間の撮影ミッションは始まった。まず初日、やりたかったスポットをしらみつぶしに攻めた。その日だけで3枚の写真が撮れ順調な滑り出しだった。流れはいい。このまま行けば問題はなかったのだが、現実はそんなに甘くはない…。湘南で撮りたいスポットがあるので、東京から湘南まで1時間30分ほどかけ電車で向かうも、スポットに到着した瞬間に雨が降り始める。梅雨の時期なだけに予想していた展開ではあったが、そのまま東京までとんぼ返りをする羽目になってしまった。だが僕たちには落ち込んでいる暇もなく、晴れ間を狙っては撮影を重ねた。そしてある程度写真のストックができたのだが、自分的にはまだ納得できなかった。
そんな時に思いついたのが、横浜にあるクイックスポットだった。前にトライした時はすぐにキックアウトされメイクできなかったスポット。ここの写真が撮れれば特集はいい物になる確信があったので横浜まで向かう。スポットに着き、Kukunochiの漆間さんにも来てもらいビデオと写真の準備が整う。キックアウトが怖いのですぐに板に乗りに行くようにとトライを心掛けたが、この日は運も味方してくれたのか雨も降らず警備員も来なかった。おかげで最後の見開きの写真が撮れ喜んでいると、このタイミングで雨がパラパラと降ってくる。メイク後で良かったと一同ホッと胸をなでおろしたのを鮮明に覚えている。
合計5日間程で特集写真が集まり、使用する写真を晋作くんと選定した。あとはインタビューとトビラのポートレート撮影、そして編集作業というミッションが残っている。自分が描く絵を特集の中に組み込んで、自分でデザインまですることが昔からやりたいことのひとつだった。そのため、トビラのポートレートのアイデアを晋作くんに伝え、中身の内容と一致するように写真を撮ってもらった。そしてインタビューを行い、特集の中にはめ込む絵を描いてスキャンし、レイアウトをした。最後の微調整は小椋くんやりとりし、特集記事は完成。タイトなスケジュールにも関わらず付き合ってくれた晋作くんに感謝。
僕の特集の裏側はこんな感じ。その他にも新しいERには10を越える特集が組まれている。そのひとつひとつに物語があるのだ。
ER Issue11をまだ手にしていない方がいれば是非この機会にゲットしてほしい。あなたの期待は裏切らないはずだから。
Hiroki Muraoka
@hirokimuraoka
現在もっとも乗れている日本人スケーターのひとり。スケートのスキルに加え、ペインターとしても非凡な才能を持つ。