「うあ~っ くっそ~ いってー やっちゃった! F●●●●CK !!!」
僕は地面に寝転がりながら情けない言葉を発しまくっていた。みんなが僕を囲んで心配そうな顔で覗き込んでいる。そうなんだ、僕は撮影中に派手に怪我をした。撮影を始めた頃、そこからきれいに見えていた神宮の花火もいつの間にか終わっていた。
その時のスポットは7段くらいの少し急な角度のハバレッジ。昔から得意だったフロントKを撮影しているところだった。あまりの急な角度に最初は対応しきれず、トラックをかけた瞬間そのまま急降下してノーズから垂直に地面に落ちるのを何度か繰り返したが、やっていくうちに「もうちょいで乗れる」という感覚になってきたところだった。かかり具合よし、角度よし、視界良好、乗るだけ。と思った時に板が少し足から離れたんだろう。とっさに右足のみで着地したその瞬間右膝がボッコシ外れてしまった。着地の瞬間はすこし前屈みで下を向いているので僕の視線の20cmほど先に右膝があり、ズボンの上からでも膝が思いっきり変な方向に行っちゃったのが目視できた。「オーマイガッ!」と思いながら地面に受け身をとり、地面から足を離し上に上げるとその瞬間、伸びたゴムが元に戻るかのように膝はバチンと返ってきた。
実はこの膝がかなり弱っていることは知っていた。靱帯がほぼない状態なのだ…多分。膝靱帯は一度伸びたり切れたりすると元には戻らないので、膝の周りに筋肉をつけてカバーするしかないというのも知っていた。しかし「今年の夏は自分の撮影をしてできる限り映像を残したいな」と思っていたので、冬があける頃から身体を作っていたつもりだった。不安だったワケでも我を怪しんだワケでもなく、それなりの緊張感をもってトライしていたので、単純に膝がポンコツだったという話である。戦う時はやはり心身一体でなければ勝利は納められないのである。
翌日、日曜でもやっている病院を探し、歩くのは少々きついのでバイクに乗ってしまえと思い、バイクにまたがり病院まで行った。ほぼ歩かなくてすむのでいい選択肢だったと自分を褒める。レントゲンを撮って骨に異常がないことを確認、また靱帯が伸びたか切れたかしたのだろう。ケンケンで病院内をピョコピョコと跳ねる僕を見て、医者は簡易的なギブスとレンタルの松葉杖を出してくれた。「今まで松葉杖って貸すとまったく返ってこなかったんだけど、一時預かり金5千円てのをもらうようになってからは結構返ってくるよ。 ハハハ」というワケで、治療費4千円と松葉杖を返すまでの間捕虜になる5千円を持っていかれた。しかし松葉杖はかなり助かる。時速1キロくらいで歩いていたのが、倍かそのさらに倍くらいのスピードにはなってくれそうだった。よっしゃ! と思いながら外に出て気がつく…。ガッデーム…バイクで来たんだったわ。僕のバイクはスクータータイプではなく、しっかりまたがってギアをカチャカチャ変えながら走るヤツだ。松葉杖を持つ余裕なんてまったくない。スケートボードを乗せるみたいに尻の下に横にして座ってみた。ダメだ。松葉杖ってスケートボードの2倍くらいあるし…。こんなんで走ったら横の車かガードレールに引っかかって、もう1回病院に戻る羽目になる。しかもバイクにまたがるのがやっとな身体なのに、これを尻で支えながら走るなんて妙技すぎて絶対無理、完全にない。
いろいろ考えたけど答えがまったく分からない。考えるのが面倒くさくて何も考えていない時間とかも多分3分くらいはあった。最終的に考えたのは「Tシャツの背中部分に!」 かなり強引だが、もうこれしかないだろう。ということで、まずはヨッコラショとバイクになんとかまたがり、Tシャツの背中の襟の中に杖を2本突っ込んでみる。かなり不安定なので、Tシャツの下から出ている杖の足をバイクのシートと後ろのキャリアの間の溝に突っ込んでみると少し安定したが、絶対に曲がらない背骨を装着したようなもんだ。背筋が伸びまくっているおかげでハンドルからは遠くなり、手もピーンと伸ばしている状態。おまけにガラスに写った自分を見ると、松葉杖が背中からかなり高い位置まで突き出している。頭5個分くらいだろうか。アホすぎて自分でも笑えてきた。
シャキッと背筋を伸ばし、腕もピンと張り、右足にギブスをして背中から松葉杖が突き出している状態で時速25キロくらいで五日市街道を走っている白いバイクを見たことがあるとすれば、それは完全に僕だ。走っていると金髪の欧米ギャルが3人向こうから歩道を歩いてくるのが見えた。欧米人は知らない人でも目が合うとニコリとしてくれるのを僕は知っている。しかしそのギャルたちのニコリは僕の知っているそれとは違うようだった。明らかに厳つく飛び出している松葉杖に目が行っている。必死の思いで家に帰って、忍者が刀を抜くように杖を背中から抜くと、お気に入りのTシャツの襟は見たこともないくらいの伸びているではないか。締まりのないVネックになってしまった。家に入ると病院に行く時は心配そうな顔をしていた嫁にすら笑われた。
前から良く知っていたし、忘れていたワケでもない。しかし今回また改めて理解した。怪我して良いことは何ひとつない。