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3月に公開された“PROFESSIONAL LIFE”で世界の話題をさらったヤルナ・フェアブリュッヘン。アルコール依存症、リハビリ施設、立て続けのパート制作、植木鉢直撃事件…。時代の寵児のライフストーリー。
──JARNE VERBRUGGEN

2020.05.07

[ JAPANESE / ENGLISH ]

Photos_Guillaume Perimony

VHSMAG(以下V): まずは出身地から教えて。

ヤルナ・フェアブリュッヘン(以下J): 出身地はベルギー。メヘレンという街で生まれたんだ。アントワープとブリュッセルの中間だからベルギーの真ん中。大きな街じゃないけど、アントワープやブリュッセルに近いからいい感じ。

V: 今はフランスに住んでるんだよね?

J: その通り。ビアリッツに住んでる。

V: フランスに移った理由は?

J: そのひとつは親友のフィル・ズァイスンが住んでるから。Elementで働いてたロミー・ベルトランドもいる。夏に彼らに会いに遊びに来たんだけど、気がついたら居心地が良すぎて半年経ってたんだ。それでラファ・コルツというマドリッド出身の親友とアパートを借りることにした。そういうわけで今はビアリッツに住んでる。

V: 昨年公開された"What Paradise?"は素晴らしかった。あのパートではヤルナが陥ったアルコール依存症について話してたよね。どれくらいの期間、戦ってたの?

J: 結構長い間、17歳か18歳の頃からだね。マジで厄介な問題だった。周りの助けを求めるまでかなり時間がかかった。2年ほどかなり酒を飲み続けた期間があって良くないとは思ってたんだけど、自分で認めたくなかったんだ。周りの人を巻き込みたくなかった。周りの協力を求めるのが大切な一歩であることはわかってたけど、そうしてしまうとこれまで目を背けてきた問題がリアルに感じてしまう。それに回復するための努力をしなければならない。まずダメな自分を変えたいと思うところから始まって、次のステップが周りの協力を求めること…これはアルコールやドラッグに依存してる人にとっては大変な作業なんだ。でも実際に行動に移すとみんな理解してくれた。今では母親や義父、そして仲間たちにすべてを打ち明けたことが、これまで自分のためにした一番のことだと思ってるよ。

V: リハビリ施設に入院もしてたんだよね?

J: そう。2年半の間に3回もお世話になった。"What Paradise?"は2019年1月に3回目のリハビリ施設を退院してすぐに撮影を始めたパートなんだ。だから自然とアルコール依存症がひとつのテーマになった。ベルギーを離れたことで人として良くなれたような気がする。アルコールの問題はまだ抱えてるけどかなりましになった。この問題とはこれからもずっと上手く付き合っていくしかないと思う。では今は気持ちがかなり楽だね。

V: 気持ちを入れ替えようと思ったきっかけは何だったの?

J: スケートと家族。周りの協力を求めたにもかかわらず裏切ったことがあって、家族が絶望した時期があったんだ。もう家族や仲間に同じようなことはしたくない。オレはマジで自己中な人間だったから。

当たり前だと思ってることを大切にできるようになった

V: 2016年にElementのプロに昇格したよね。スポンサーはどうなったの?

J: プロに昇格してから契約を保留にされたんだ。理由はもちろんアルコールの問題。あれは悲しかった。本当にすべてを失ってしまうと思った。それでNike SBに「これ以上何も失いたくない」と気持ちを伝えたらオレの言葉を信じてくれた。あれは大きかった。オレの言葉を信じてくれたおかげでまたスケートと向き合うことができ、人生を棒に振らずに済んだんだと思う。

V: どん底の時期から得たものは?

J: すべてを失う辛さを知ることができたことかな。そして自分が持ってるものをありがたく思えるようになったこと。お決まりの表現になっちゃうけど、当たり前だと思ってることを大切にできるようになったこと。オレは12歳でスケートを始めて、14歳でスポンサーがついて、15歳でツアーに出るようになった。それ以来、ギアはすべてタダ。何に対しても金を払わないことが当たり前になった時期もあった。これまで仕事をする必要もなかった。全力を尽くしてがんばることを知らなかったんだ。でも今は違う。今の生活があることを感謝しないと。そうだろ?

V: そうだね。ずっと取り憑かれてた悪魔を追い払ってあのパートができたってわけだ。

J: 撮影中はまだ悪魔がいたけどね。まあ、でもそんな感じかな。

V: あのパートでひとつ聞きたいことがあるんだけど…。ラストトリックをメイクした後にかわいい女の子が映って、サブリミナル効果みたいに一瞬、電話番号が出てくる。あれは誰の番号?

J: オレの番号。

V: 電話かかってきた?

J: まあ、実は…そんな感じかな。

V: マジで。ヤバいね(笑)。

J: 誰かが彼女にあのシーンをことを伝えたらしくてショートメッセージが来たんだ。あのバンクはバルセロナにあるんだけど、あの娘はアントワープの学校に通ってたんだったかな。かなりの偶然だった。1年くらい前の話。何度かメッセージのやり取りをしたんだけど実際には会ってない。彼女はアントワープにいて、オレがツアーでクロアチアに行ってたんだ。「へぇー、アントワープで勉強してるんだ? オレもベルギーに住んでるよ。超偶然だね」って感じでやり取りしてたんだけど会うことはなかった。付き合ってもない。今はオレの番号が変わっちゃったんだ。あの娘はたぶん何度か連絡してくれたはずだけど…。
 


 

V: もったいない…。ちなみに"What Paradise?"からノンストップで映像を出してるよね。Spitfireの"One Week With Jarne"もあったし。ヤルナのパートに登場するマイテっていう女の子は誰なの? 最高のヴァイブスの持ち主だよね。

J: そうだね。彼女はアントワープのスケーター。最高だよ。ビデオで観るのと同じくらい最高の人間。特別な女の子なんだ。マジでクール。個人的には今の時代に必要な人材だと思う。友達だと言えるのがうれしいくらい。彼女がガキの頃から知ってるんだけど、10歳の頃にすでにフルパッドでハンドプラントをしてた。最高のヴァイブスを放ってるし。頭のいい娘だからいろんなことについて話し合えるんだ。ノータリンでバカなスケーターじゃないからね。
 


 

V: では今年3月に公開された"Professional Life"について。かなりヘビーな12分だったね。

J: ありがとう。あのパートの前半はすべてクロアチアで撮影されたフッテージ。母親がクロアチアに引っ越したからフィルマーのギョーム・ペリモニーと撮影しに行ったんだ。それでフッテージを量産できた。7、8日で前半のパートが完成。VXとHDのふたつのパートがひとつにまとまった作品にしたかった。それで途中におかしなスキットを挿入する。ユーモアも必要だからね。とにかくあのパートは自分でかなりのプレッシャーをかけながら進めたから大変だった。メイクできなかったトリックもたくさんある。正直言うと楽しい期間だったとは言えない。スケートに対してイラつくこともあったし。そしてあの植木鉢の一件も起きた。今思うといいヴァイブスで撮影を進めてなかったからあんなことが起きたんだと思う。

一瞬気を失って、気がついたらステアの下で倒れてた。何が起きたか理解できなかった

V: あの植木鉢のシーンはひどかったね。あの日について詳しく教えてもらえる?

J: あのスポットでヒッピージャンプをトライしてたんだ。すると男が窓を開けて怒鳴り始めた。「すぐに終わると思う。5分もすれば帰るから」ってなだめようとしたら男が部屋に戻っていった。それでトライし続けてたら突然、植木鉢を窓から投げ始めたんだ。しかもギョームを直撃しそうになった。あのトリック自体怖いのに、さらに男が上から植木鉢で狙ってる状態。あれは狂ってたね。

V: 映像を観てるだけで緊迫感が伝わってきたよ。

J: しかもバンクの下の通りは交通量が多いんだ。仲間に車を見ててもらってたんだけど、あれはこれまでで一番ストレスの多い撮影だった。でもできると思ってたから「ファック。絶対にメイクしてやる」って思いながらトライし続けた。それで男の投げた植木鉢がオレに直撃したんだ。一瞬気を失って、気がついたらステアの下で倒れてた。何が起きたか理解できなかった。壁に頭を打ったなんて知らなかったから。

V: 壁に頭を打ちつけたって知らなかったんだ…。

J: そう。近所の住人が男のことを知ってたんだけど、聞くところによるとどうやらクレイジーで評判だったらしい。それで住人が警察を呼んだんだ。あの男は独り身なんだよ。独りでずっといると発狂しちゃうのかもしれない。かわいそうとは思うけど、オレは殺されかけたわけだから。ということで警察が到着してオレたちに怪我がないか確認してきた。植木鉢が直撃したことを伝えると、警官が男の部屋に上がっていった。だからその間、植木鉢を気にせず3、4トライできることになった。あの男は植木鉢だけじゃなく棒やら部屋にあるあらゆるものを投げてきてたから。

V: 植木鉢だけじゃなかったんだ? ヤバいね。

J: そうやってようやくメイクできた。するとメイク直後にまた違う警官が到着して「オマエら私有地で何やってんだ。やめろ」って言ってきたんだ。そしたら男の部屋から戻ってきた警官がオレらをかばってくれて警官同士でモメ始めた。植木鉢の男の対応をしにやって来た警官は「あのスケーターたちは何も悪いことをやってない。私有地でも何でもない。仲間に車を見てもらいながら適切なことをやっていただけだ」って。ということで最初の警官がオレらを助けてくれたんだ。さらに植木鉢の男を訴えるかどうか聞かれたけど、あんなセッションの後に警察署に行くのはイヤだから何もしないことにした。もうたくさんだったんだ。メイクできてホッとしてたってこともあったと思う。すると男が下に降りてきて、割れた植木鉢とか土とかの惨状に対して激怒してきた。「いや、オマエがやったんだよ。アホか」って思ったね。終始怒り狂ってたから。

V: じゃあ男は何の罰も受けずに済んだんだ? 連行もなし?

J: 何もなし。家に帰って映像を確認したんだけど、そのときに壁に頭を打ちつけたことを知ったんだ。「マジか。死んでてもおかしくないじゃねぇか。クソ野郎」って感じだったけど、ギョームがこう言った。「ヤツの暮らしを見てみろよ。行動を見てみろよ。あの人生そのものがヤツにとっては罰なんだ」。たしかにその通りだと思った。オレらにはどうすることもできない。あんなことをするってことはすでに頭がおかしくなってるってことだから。

V: そう考えると悲惨だね…。

J: かわいそうなくらいだ。とにかくあの日はヤバかった。おかげである程度、オレは脳に障害ができたかもしれない…。でもそれはたぶんこれまでの酒とかの影響だろうけど(笑)。まあ、そんな感じ。めでたくメイクできて、ギョームは怯むことなく記録し続けた。オレはかなり怖がってたのに、ギョームはずっとファインダーを覗いて上を見向きもしない。ヤツはNational Geographicでライオンとかを撮ったほうがいいんじゃないかな…。

V: ピューリッツァー賞ものだね(笑)。

J: ちなみに大変だったのはそれだけじゃないんだ。パリ滞在中に欲張って引き続き撮影したんだけど、そのときに足をひどく骨折しちゃった。パートの撮影続きでずっと身体を酷使してきたから…。ずっと走り続けてきた。怪我でもしない限り止まれない状態まで来てたんだと思う。「おい、そろそろ落ち着け」って神さまか誰かに言われたような気がしたね。

V: ちなみにあのパートは音楽も良かったね。

J: ありがとう。でも実は最後の曲の著作権がクリアにならなかったんだ。だからギョームがピアノを習って自分で弾こうとしたんだけど…しばらくして「時間がなさすぎる。絶対に無理」って諦めることになった。それでコンピュータのソフトであの曲を再現したんだ。それも相当ヤバいけどね。だからあの曲のアーティストはギョーム。ヤツはいつも解決策を見出してくる。ドープだろ? いつもポジティブ。だからヤツとの仕事は最高なんだ。

V: いいコンビだね。

J: そう…。あれ、ちょっと待って。イヤホンがスマホに繋がってなかった。

V: え? どういうこと?

J: イヤホンを通してインタビューしてると思ったらスマホに繋がってなかった。プロっぽく見せてただけだった(笑)。

V: じゃあ耳から外せば(笑)。ではあのパートで思い入れの強いトリックは?

J: ハーフキャブでワンアップしてからのステアでのバックスリーかな。ステアでバックスリーをあまりやったことがなかったから。もう二度とやらないだろうし。実はあのトリックはギョームと賭けてたんだ。「このトライでメイクできなかったら$50」みたいな。最終的に車を賭けるところまで行った。そしてデッキが折れちゃってその日は終了。ということでオレは賭けに負けて車を失ってしまった。ギョームはずっと「おい、オマエの車はオレのだからな」って嫌味を言いたい放題。だから絶対に戻ってメイクしなければならなかった。もともとメイクしたいのと車を取り戻したい…ということでモチベーションも2倍。そして翌日に見事メイクして車も戻ってきたってわけ。

V: そりゃ良かった。

J: メイクできないときはよくフィルマーと賭けるんだ。ギョームは「結局オレが勝った試しがないじゃねぇか。もうやめようぜ」って言ったことがきっかけであのパートにも登場するオモチャのアヒルが投入された。あれは押すと電気が流れるんだ。だから撮影中は「このトライでメイクできなかったらアヒルを押せ」って感じで進めるようになった(笑)。

V: ああいうクリップとかスキットもヤルナのパートの見どころだよね。"Professional Life"の最初のクリップはどうだったの? 「フロントウォールをやってトレフリップをやる」って言って崖の下で倒れてるシーン。

J: あれもスキットだね。ある瞬間にパッと思いつくんだ。楽しんでるだけだけどね。スキットはいつも笑いながら撮影してるよ。真剣に考えたスキットより適当にやったもののほうがいいから。

V: ではスケートに関しては? スポットのアプローチもユニークだよね。スポットの適応力もハンパない。

J: どうだろ。あまり準備しすぎないようにしてるかな。もしスポットで上手く行かなかったら、ただスケートして考えないようにしてるかも。
 





 

V: さっき足を骨折したって言ってたけど、今は良くなった?

J: 良くなったけど今はまだ全力でスケートできない。かなりひどい怪我だったから。時間をかけて完璧に治したいね。

V: しかも新型コロナのせいで大変だもんね。今は自宅待機でソーシャルディスタンシングを実践中? フランスの状況はどうなの?

J: ラファと一緒に住んでるからひとりっていうわけじゃないけど、基本的にずっと自宅で過ごしてる。オレらの環境はそう悪くはないよ。幸運なことに庭もある。ビーチは閉鎖されてるけどね。でも空気が心地いい。外出も少しはできるし。1時間だけ外出が許されてるんだ。だから散歩もOK。警察が厳しいけどね。こないだラファと薬局に行ったんだけど、そのときにヤツがデッキを持ってたんだ。すると警官が横柄な態度で「そんなもん持って何してんだ」って。するとラファは「1日1時間は自宅から500m以内で運動していいんだろ?」って言うと「スケートボードは運動じゃない。スポーツとしてオレは認めてない」って言いやがる。スケートはオリンピック競技になったんじゃねぇのかよ?

V: クソ野郎だね。じゃあ自宅で何して過ごしてるの?

J: ちょっとしたプロジェクトかな。最近、オレらでデッキを作ったんだ。フランスにRekiem Skateboardsっていうのがあって、ハンドメイドでデッキを作ってるヤツがいるんだ。そこで自分たちのデッキを作ったのは楽しかったかな。今はできることをやってる感じ。

V: いいね。では怪我が治って自粛ムードも晴れたら何がしたい?

J: またスケートをして調子を戻したいね。調子が戻ったら1ヵ月ほどツアーに出たい。アメリカに行けたらいいな。SFでスケートできればドープだね。あとはフィルと“Double Impact 2”が撮れれば最高。

V: 楽しみにしてるよ。では最後になるけど何か言い残したことは?

J: ああ、実は今ひとつ思いついたんだ。スポットのアプローチについての質問に対してこれを追加してほしい。「オレがスポットにアプローチするんじゃない。スポットがオレにアプローチして来るんだ」。

V: 了解。いいエンダーだね(笑)。

J: 良かった、ありがとう。じゃね、チャオ。

 

Jarne Verbruggen
@jarneverbruggen

1992年生まれ、ベルギー・メヘレン出身。ユニークな発想と独特なアプローチで注目を集めるベルギーの雄。現在はフランスで怪我の回復を待ちながらネクストプロジェクトを思案中

 

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