
昨晩の仕事帰りの深夜、遠くから勢いのあるプッシュ音(ノーマルウィール)が聞こえてきたので、「スケーターだ! 知ってるヤツかな?」と思い、音の聞こえてくる坂のほうを見るとやはりひとりのスケーターが猛然とプッシュしていました。しかも彼は坂を下ってくるのでなく、鬼プッシュで上っていくのです。こんなに暑い夏の深夜に、いても立ってもいられなくなるようなプッシュしたい衝動に駆り立てられたのか、それともプッシュで坂を駆け上がりたくなるほどのいいこと、あるいは嫌なことがあったのかは判りませんが、騒音を引きずって坂の向こうに消えていくそのスケーターを僕はしばらく眺めていました。
そんな彼の場合はともかく、基本的に坂はスケーターにとっては下りを楽しむものであるように思えます。これはかなり原始的なスケートの愉しみ方で、板に乗ることができれば誰もが平等に体感することのできるスケートボードが持つ魅力のひとつです。僕なんかもそうですが、スケートボードというモノを初めて手にしたとき、近所の坂道に持って行ってデッキに座って、友だち数人で「誰が一番速く転ばないで下れるか競争!」なんてこと、やったことあるぞっていう人結構いるんじゃないでしょうか?
そこから板に立てるようになって、パワースライドをおぼえて、オーリーという魔法のようなトリックを知り、路上の坂をボムする喜びに気づいて一人前のスケートボーダーになるわけですが、この坂下り、いわゆるダウンヒルの途中にトリックを交えながら一本のラインを完成することのできるスケーターは相当の達人であるといえます。なかでも坂の多い街として有名な世界都市、サンフランシスコが古くからスケーターのメッカであることは言わずもがなですが、その比較的ラフな路面の車道と、アメリカ特有のパワースライドが入れにくく、時々深めな溝がコンスタントに続く歩道をうまく捉えて、坂下りという原始的な側面と、トリックを駆使して流れていくという技術的な戦略を巧みに組み合わせたラインで魅せることのできるスケートはいつ観ても気持ちがいいものです。
--TH (Fat Bros)