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 今から10年近く前、当時20代半ばだった自分は、某出版社に勤めていた…
──モデルデビュー(前編)

2012.05.31

 今から10年近く前、当時20代半ばだった自分は、某出版社に勤めていた。
 自分は某ファッション誌の編集部に所属していたが、別のフロアに男性誌(エロ本)の編集部があって、その編集部に届くサンプルDVDなんかをしょっちゅうおねだりしていて、とても良くしてもらっていた。
 まだxvideosなんてなかった時代。男の欲求を満たすメディアの主流はDVDだ。大量にゲットしたサンプルを友人たちとシェアして楽しんでいた。
 そんなある日、いつものようにDVDを頂戴しに男性誌編集部へ行くと、投稿系男性誌の編集者Nさんに声をかけられた。

 「ちょっと手伝ってもらいたいことがあるんだけど、明日の夕方時間ない?」
 「ダイジョブっす! 時間あるっす」。
 「じゃあ新宿西口のスバルビルの前で夕方の6時集合ね。撮影を手伝ってもらいたいんだよね」。
 「了解したっす」。日頃からお世話になっている手前、内容にやや不安を感じながらも、要請に応えることした。この決断が、あんな悲劇を巻き起こすことになるとは知らずに・・・。

 翌日、自分の仕事を適当に切り上げ、「ちょっと用事あるんで出てきます」なんて上司に伝え、いそいそと新宿スバルビルへと向かう。
 現場にはすでにNさんとフォトグラファーが待機していた。

 「おつかれっす」。風を切り颯爽と登場する自分。日頃の恩を返すのはここだとばかりに、気合十分で現れる。
 「どうもMくん。こちらは今回のフォトグラファーの●●さん」。
 Nさんは、カメラを首から下げた30代後半くらいの髭面の男を紹介する。

 「はじめましてMです。よろしくお願いします」。軽く挨拶を交わす。
 そして気になっていた今日の仕事の内容を切り出す。
 「あのっ、今日はどんな感じの撮影を手伝えばいいんですか?」

 「言ってなかったんだけど、実は今日は『今若者たちの間でカー●ックスが大流行』って内容の撮影だから。Mくんには今回は仕込みのモデルをやってもらいたくて」。

 「えっ、撮影って撮るほうじゃなくって出るほうですか・・・!! モデルって・・・そんな・・・無理っすよ」。当日現場で初めて聞く内容に、驚きを隠せない。

 「いやいや大丈夫だって。ちゃんと目線も入るから。それにもうすぐモデルも来ちゃうから・・・」。
 戸惑う自分をよそに、フォトグラファーと打ち合わせを進めるNさん。ハメられたのか、これからハメるのだかわからないが、とにかく大ピンチ。
 「親に見られたらどうしよう」とか、頭の中をいろんな思考がグルグルと回っていく。

 そんな矢先、「すいませ~ん♥ おそくなりましたぁ~」。
 年齢は30代後半。生活の疲れと年齢に合わない甘ったるい喋り方のアンバランスさがイルな雰囲気を醸し出す、痩せた女性がこちらへ寄ってきた。
 どうやら彼女が僕の恋人役(!!)のようだ。

 「おつかれ~Aちゃん。今日はよろしくね~。彼が今日一緒に撮影をしてくれるMくん。Aちゃんはいままで仕事だったの?」
 「はい~♥。仕事終わって直接来ちゃいましたぁ~」。

 ヤバイ・・・。大ピンチ。これからどんな感じになってしまうのだろうか・・・。
 Aちゃんを目の当たりにし、安請け合いをした昨日の自分を恨んだ。

--TM

続く

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