スイッチ派ですか、フェイキー派ですか? いつもながら何の脈力もないナンセンスな問いかけです。当然答えは「両方好き」というのが理想系なのですが、あえて自分がどっち派(というよりもスイッチとフェイキーの比率的なところで)なんだろうって考えたときに、割とどっちかに分けることができるような気がします。自分も含め、いわゆる(自称)ミドルスクールのスケーターのほとんどはスイッチよりもフェイキー派というスケーターが多いような気がします。なにしろスイッチスタンスというものがスケートシーンに定着したのが1992年頃なので(その前にもチラホラみかけましたが、全体的に浸透したって意味合いで)、それ以前からスケートボードをしている人はどうしてもスイッチが苦手な傾向にあります。そんな時代の潮流も無関係ではないのですが、自分はスイッチ系がまったくダメな典型的なスケーターのひとりです。スイッチ系が流行りだした'90年代前半に必死こいて練習はしたものの、技術的に上手くいかなかったこともありますが、感覚的にシックリこなかったということがスイッチを追求しなくなった理由です。「スイッチができないヤツがこんなところで釈明弁論するな!」ってお叱りの声が聞こえてきそうですが、ヤングガンだった頃のかつての自分が、ある時を境にスイッチではなくフェイキーを選んで(というか好きだった)やるようになったという話であります(いまとなってはフェイキー系もほぼ皆無)。
そんなスイッチよりもどちらかというとフェイキー好きな自分が最近(というか結構前から)、フェイキー的な観点で気になっているのが、函館出身で都内在住の金子次郎。スイッチ派が主流となっている昨今のスケートシーンで(というかスイッチがデフォルトの時代なんだけど)、彼からはフェイキーへの強いこだわりを感じられます。『TAIPEI VACATION 2』で見せたフェイキー5-0からのフェイキーフリップOutやギャップでのフェイキーフリップは、まさにフェイキーマンの真骨頂と言えるのではないでしょうか。スイッチ・ネイティブ世代(スケート始めたときには既にスイッチが定着している世代のことね)の次郎に「どうして若いのにスイッチよりもフェイキーを多用するの?」と直接訊いたことがあります。その答えは、思わず右手の拳で左の手の平を叩いてしまうような明快なものでした。それはまだ次郎が函館で“WHEEL”というスケート誌に読プレ欲しさのあまり熱心にイラストを描いて送っていた頃、STEREO時代(現IFO)の中島壮一朗に強い影響を受けていたとのこと。中島壮一朗といえば、国内ではもちろん世界でも有数のフェイキー・ファンタジスタとしてその名を轟かせたMr. フェイキーマン(スイッチも上手い)。納得の一言です。
フェイキーマン、というワードが出たのでもうひとりご紹介させていただきたい。そのお方は、ACME→101→23→AESTHETICS と渡り歩いたフェイキーをこよなく愛する(多分)スケーターの代表格であるクライド・シングルトン。『TRILOGY』、『411:ROOKIE』『411:PROFILE』を観てもらってもわかるように、とにかくフェイキー系のヴァリエーションが豊富。ブラインドサイドのハーフキャブノーズでハバをメイクしたことで、キング・オブ・フェイキーの称号を不動のものへと昇華させたのです。精度の高いフェイキートリックに加え、スタイルや服装もアティチュードもかっこ良すぎの個人的にも大好きなスケーターのひとりでした。余談ではありますが、その昔クライドさんからACMEのデッキを$20で譲り受けたことがあります(まったくの余談ですね、失礼しました)。
日米のフェイキーマスターを勝手にご紹介させていただきましたが、最後にフェイキーを地で行く友人の話で締めくくらせていただきたいと思います。その友人は、スタイリストを生業とするスケートボード愛好家のイニシャルT・N。トリックうんぬんではなく、フェイキーがメインスタンスとなっている希有な存在です。おそらく世界中探してみても、町中をフェイキープッシュで移動するスケーターはT・N以外はいないのではないかと。TMCや新横あたりで、自分と一緒に滑っているのを目撃されている方も少なくないかと思いますが、スポットに到着するやいなやフラットでフェイキーマニュアルをこなす、彼のことです。オリジナリティやクリエイティブって言葉を頻繁に耳にしますが、彼こそ唯一無二の真のオリジナルだと確信しております。端から見たら異常とも言えるそのフェイキーへの執着っぷりに(というか標準装備)、スケート愛好家としてのカタルシスを感じます。
そして彼はこう言い放ちました「フェイキーは、アイデンティティだから」と。
※コラムに関してはスタッフの独断と偏見を交えておもいっきり主観で書かせてもらっているのであしからず。
--KE