Vans Skateboarding Presents ALRIGHT, OK

パンクのDIY精神をバックボーンに持つHIROTTON。初めて手掛けた作品からHAILPRINTSまで、渡英を機にスタートした創作活動の軌跡を辿る。
──HIROTTON

2020.06.16

[ JAPANESE / ENGLISH ]

Photos_Junpei Ishikawa
Archive photos courtesy of Hirotton
Special thanks_HAILPRINTS

VHSMAG(以下V): まず地元の静岡でスケートを始めて、大阪に一時期住んでたんだよね?

Hirotton(以下H): そうですね。高校を卒業して大阪芸大に入りました。大阪芸大では溶接で家具とかオブジェを作ってたんですけど、卒業後にお金を貯めてロンドンに移りました。大阪では三角公園でチョッパーさんとかと一緒に滑ってたんですけど、当時HeroinのボスであるFOSがよく遊びに来てたんです。そこでFOSと顔見知りになって、もともとパンクが好きだったこともあってロンドンに住んでみようと思いました。ロンドンでクリエイティブなことをしたかったんですけど溶接できる環境がなくて…。それでよく遊んでいたFOSとかHeroinの周りのスケーターに絵を描いてるヤツが多かったんで自分も描いてみようと思いました。

V: 初めて制作した作品は?

H: 最初の作品と呼べるものはロンドンの自分の部屋の壁に描いた大きい亀の絵。絵は昔から好きで描いてたんですよ。芸大に入るためにデッサンの学校みたいなところに行ったりもしました。ロンドンには2008年から2012年までいました。

V: 当時影響を受けたアーティストは?

H: 昔からハードコアパンクが好きで、Crassってバンドが好きだったんです。Crassの人たちもロンドンに住んでいるから遊びに行ったりしてました。ジャケのアートワークとか社会に対するメッセージ、動物愛護や環境に関する思想にもすごく共感して影響を受けました。あとはやっぱりHeroinが近かったこともあってFOSの影響も大きかったです。デッキのデザインもずっとしたいと思ってましたし。


V: 自身のアートプロジェクトであるParadoxについては?

H: Paradoxは大阪にいた頃から始めてたんです。その頃は絵を描いてなかったんですけど、モノクロの写真をTシャツに刷ったりとか。ブランドじゃないけど、自分のプロジェクトっていう感じでずっとやってました。絵を描き始めてからは、アートワークをTシャツに刷るときに自然とParadoxって入れるようになっていました。大きく「Hirotton」って入れるのも違うと思っていて、それでずっと続けていたParadoxを自然と使っている感じです。

V: ロンドンでの4年間はいろんなものを吸収できた濃い期間だったと思うけど、渡英したことで身についたことは?

H: まず視野が広くなりましたね。英語がある程度話せるようになってからはいろんな国の人と繋がれるようになったし、アートもスケートコミュニティも言葉が通じればさらに広がる。ロンドンでの経験がなかったら今の活動も絶対にできなかったと思うし。違うカルチャーを見ることができたっていうのは大きかったと思います。Crassの人たちとも自分の言葉で話すことができたし。どんな思想でバンドをやっていたかとか、現在の彼らは何を考えているのかとか。話している中で自分の深いところとも向き合える感じがして…。あの4年間で自分は本当に何が好きなのか、自分が今どこに立っているのか、これからやりたいことは何なのか。そういうことをしっかり考えることができたような気がします。

V: ロンドンで方向性が完全に定まった感じだね。

H: そうですね。それまでも漠然とクリエイティブなことは好きだったんですけど、何がやりたいかはっきり決まってなかったし。将来のことも考えてなかったから。

V: そういえばBB・バスティダスともロンドンで出会ったんだよね? 「初めて会ったとき、Hirottonはトレンチコートを着てた」って言ってたよね。

H: いや、あいつ「トレンチコートを着た変わった風貌のヤツだった」とか言ってたけど、オレが着てたのはモッズコートみたいなものなんです。トレンチコートなんて着てたことないし(笑)。BBは今NYに住んでいるんですけどよく連絡をとっています。

V: 記憶違いだったんだ(笑)。もともと溶接をやってたって話だけど、絵に関して現在の作風に至った経緯は?

H: やっぱりハードコアパンクの思想が元にあるから、根本には動物愛護とか環境問題とか…政治関係とか人種差別のメッセージがあって。ロンドンにいた頃に自分も人種差別を受けたことがあったし、日本人が世界でどう見られているかとか。そういうことをテーマにした作品も当時はよく描いてました。自分がそのとき体感していることや、環境によって作品のテーマは変化しています。最近はもっと技法というか、色を使ってみたりとか、大きい作品を中心に描いてみたりとか、ディテールやスキルにフォーカスしてたりします。同じ作風を通し切るスタイルも素晴らしいと思うけど、自分は新しいことにトライして進化していくスタイルが見ていても好きだから、作風はつねにトライして進化させていきたいです。

V: アートで食っていくって決意したきっかけは覚えてる?

H: 2015年に中目黒のスペースで個展を開催したんですよ。ENZOさんていう方が協力してくれて、よく描いてた小屋の絵を実際に立体で作ったんです。ちゃんと人が中に入れる大きさで。それでその外壁の中も外も全部絵で埋め尽くして。制作に何日もかかって缶詰状態にならなきゃいけなかったから仕事を辞めたんですよね。そのときに腹をくくって本気でやってみようと思いました。それが転換期ですかね。それでその展示も結構反響があって雑誌も取り上げてくれて、いろんなところに繋がっていきました。ちょうどその後くらいにHeroinが自分のアートワークを採用してくれたのかな。




描き続けることが重要だ。自分のスタイルを創り上げろ

V: それが初のボードグラフィックだよね。

H: 最初のデッキデザインは絶対にHeroinのデッキをやりたいって思ってたんです。帰国してからほぼ毎日絵を描いていて、描きためた絵でNo.12 Galleryで初めての東京での展示をやったんです。ある程度の評価ももらえて、それで自信も少しついてきて。ひとつの夢だったけれどもしかしたら手が届くかもしれないと思って、FOSにボードグラフィックの話をメールで長々とその頃描いたアートワークと一緒に送ったら「お前の気持ちはうれしい。アートワークもじっくり見させてもらったよ。でも現段階ではお前の絵はいろんなアーティストの影響を受けて構成されている。でもそれは悪いことではない。描き続けることが重要だ。自分のスタイルを創り上げろ」って言われて。「オレも何年もかけてそれを探したよ。お前も真剣なようにHeroinも真剣に取り組んでいる。友達ってだけでオファーするわけにはいかないんだ。これからのお前の進化を楽しみにしているよ。その時が来たらオレからオファーするから」って。でもそういう厳しい感じで対等な立場で真剣に答えてくれたことがオレは逆にうれしくて。それからもずっと描き続けて何回か個展をやってたら、2016年に急にFOSから連絡が来て「Heroinのデッキ描いてみないか」って言われたんですよ。あんな震えるくらい高まる感じはなかなかないですよね。今までの点が線で繋がった感じがしたというか。FOSもそのデザインを気に入ってくれてデッキのセールスも良かったみたいです。そこから毎シーズン出したり、シリーズも何回か描かせてもらったり。今も毎回オファーをくれてますね。



V: 最高だね。Heroinに関してはFOSと繋がってたけど、その後にFoundationやToy Machineともやってるよね。 彼らとはどうやって繋がったの?

H: ロンドンで会ったBB・バスティダスがBakerとかのデッキのデザインをしてたんです。BBとは同い年だし、お互いの作品が好きだったってこともあって意気投合して、ヤツの地元のオーシャンサイドで一緒に展示をやったことがあって。そのときにライリー・ホーク、コール・ウィルソン、コリン・プロヴォスト、ローワン・ゾリラとかと出会って、一緒にスケートしたり酒飲んだりしたんです。展示にも来てくれて。オレもオーシャンサイドにでっかい壁画を描いてたからそれも気に入ってくれて。それで「今度オレのデッキを描いてほしい」って言われて。だからFoundationとかToy Machineはライダーと仲良くなって繋がった感じですかね。コリン・プロヴォストに関しては彼の家にあるプライベートスケートパークや車にもペイントしました。



V: これまでボードグラフィックを手掛けたブランドは?

H: Heroin、Vagrant、Foundation、Toy Machine…。

V: Bumbagもやってたよね。

H: そうですね。Bumbagもオーシャンサイドのヤツらだから。Psockadelicも1回やったし。オーシャンサイドは毎年行ってたんで、その辺のヤツらとは繋がりました。





 


 

V: スケート関連で思い入れの強い作品は?

H: やっぱりHeroinの1stですかね、さっき話した経緯があったんで。Toy Machineに関してはエド・テンプルトンとメールでやり取りしたときに結構震えましたね(笑)。アート関係でも憧れてたというか雲の上の人だったから。そんな人とデザインのやり取りができて、自分のアートワークを認めてもらえたことはうれしかったです。ラフを送ったらかなりいい反応がもらえたりとか。「次のシーズンで出そう」って言われたときは震えました(笑)。オレあんまテレビ観ないんですけど、どんな芸能人よりも会いたい人みたいな。

V: わかる(笑)。では2015年にアートで食っていくって腹をくくって以来、社会の歯車にならずにDIYで創作してきたわけでしょ。HirottonくんにとってDIY精神の魅力って何?

H: 自分にとってはDIYが割とナチュラルなことだったんですよね。高校卒業した頃からチョッパーさんが近くにいたからかもしれないですけど、その頃から自分でTシャツを刷ってたし。ロンドンから帰ってきてから露光機を自分で作ってTシャツを家で刷れる環境ができたんです。作ったTシャツを売ってお金を作ったり…。それが自然なことで苦とも思わなかったんです。自分が本気でやりたいことだから、誰かに任せるよりは極力自分で全部やりたいと思ってしまうし。制作時間がどんなに長くて休む時間がなくても、当たりまえだけど好きなことだから苦にならないというか。

V: DIYがもともと身近なものだったんだね。今は自身の創作活動と並行してスクリーンプリント工房のHAILPRINTSもやってるよね。その経緯は?

H: ロンドンから帰ってきて自分で露光機を作ってプリントしてて、東京に出てきてからスケートもあって今一緒にHAILPRINTSをやってるマコくんと会ったんですよ。オレが家でシルクスクリーンのプリントしてることにマコくんが興味を持って、露光機の作り方を聞かれるようになって。それでマコくんも家でプリントしたりしてどんどんハマっていって。ある日プリント屋を立ち上げられる環境があるっていう話をマコくんから聞いて絶対に一緒にやりたいって思って…。それが2018年の1月だったんですけど、トントン拍子で8月に状況が整ったんですよ。それでオレは9月にジョインした感じですね。


V: それで今はふたりでやってる感じだね。

H: 周りにバンドやってる人とか、スケーター、フォトグラファー、絵描き、モデル、ブランドやってる人もいるし。映像作ってるヤツもいるし、いろんな面白いクリエイティブな人たちがいるから、「そういう人たちの作品をオレらが形にできたらいいよね」っていう感じで思ってて。自分たちのコラボもして、オレらのスタイルも出せればいいなって。それもDIYに繋がることだと思うし。「Crassじゃないけど、自分たちのコミューンというかシーンを作れたら一番いいよね」っていう話をしてました。

V: これまでHAILPRINTSでプリントしたブランドは?

H: Chaos Fishing Club、Radiall、MxMxM…ESOWとか川とか。bern、SABRE、Bashi Burger Chance…PossessedとかClumsyとかTime Scan、Trash Breed Trash、Golden Age、Diskah、Satanic Carnival、蜷川実花の映画のスタッフTeeとか。自分がデザインさせてもらったブランドを中心に、あとは友達のバンドや飲み屋のTシャツとか。いろいろやらせていただいてます。

自分たちが納得できないものは絶対に出さない

V: Hirottonくんは昔からスクリーンプリントをやってるわけだけど、そのやりがいって何?

H: 1枚1枚を自分たちで刷るっていうこと。機械じゃないし、刷り方によっても風合いとかが結構違うから難しかったりとか。失敗することも多いし。それが逆にオレたちにしっくり来てるんですよね、自分たちの手で1枚1枚刷るっていうのが。あとはやっぱり自分のデザインは最後まで自分で刷りたいって思ってしまうんですよね(笑)。

V: こだわりは?

H: 自分たちが納得できないものは絶対に出さない。打ち合わせを大事にしてるから話し合いながらアイデアを交換したり。ただの業者っていうよりは、頼んでくれる人ともっと近い距離感で作っていけたらいいかなって思ってます。自分がこれまでDIYでやってきた経験もそこに活かせるし。やっぱりオレたちがやるのなら単にシルクスクリーンの業者って感じではなく、どこかDIYの延長でやっていきたいから。自分のParadoxのTシャツもHAILPRINTSができたことによって幅が広がりました。多色プリントが何色もズレなく刷ることができるようになったり、インクやプリント自体のクオリティも上がってます。






V: HAILPRINTSでこの先やりたいことは?

H: アーティストコラボにもっと力を入れていこうと思っています。繋がりがあって尊敬しているアーティストとHAILPRINTSのコラボでオリジナルアイテムを作っていくプロジェクト。一発目は自分が描いたロゴ、そしてESOWとのコラボ。仲のいいスケーターのロブに映像を作ってもらってプロモーションしたりとか。次のコラボはUSUGROWなんですけど、それももうすぐ出せる感じです。そんなプロジェクトをブレずにずっとやっていければと思ってます。せっかく近くにお互いを認め合える人たちがいるので、自分たちにしかできないことを形にしていきたいです。あとはHAILPRINTSのオリジナルのTシャツのボディが完成したんですけど、これも試行錯誤を重ねて自分たちの理想の形と素材を追求した結果が詰まってて。そのボディに自分たちの手でプリントすることによってDIYの精神にもより近づくというか、自分たちがやりたかったことが形にできてきてて。今後はTシャツだけでなく、パーカーとか他のオリジナルのボディも進めていきたいと思っています。

V: そういえば新しくオープンしたVans Store Harajukuのために大きい作品を描いたんだよね?

H: Vans Japan、Hiddenからオファーをもらって。自分も高校生の頃からずっとVansを履いてたから、やりがいがあるというか単純に話をもらえたことがすごくうれしくて感慨深かったです。あの絵のモデルはレイ・バービーなんですよ。Vansもレイ・バービーも好きだからイメージが膨らみやすくて描いていてアドレナリンが出ましたね。打ち合わせの段階で作品のイメージはすでに大体できてて、サイズ感もこれくらいがいいって話になって大きいキャンバスに描くことになったんですけど、フレームがあったほうがいいって話になって。それでせっかくだし、妥協もしたくなかったから友達のSLAM STONE BUILT.っていうコンクリでフレームを作ってるスケーターに頼むことにしました。予想通りかなり面白くていいものができました。


V: パーキングブロックを模したフレームはかなり面白いね。

H: そうなんですよ。キレイに一度作ったものにちゃんとワックスを塗って、わざわざトラックで削って(笑)。リアルにグラインドの感じ出すためにあえて端の部分を強く削ったりして…もうバカですよね(笑)。そういうこだわりの強さ好きですね。一緒に何か創ってて共感できるし、制作に対しての愛を感じるからこっちも上がるし。SLAM STONE BUILT.も千葉のJAM Framing Serviceもただの業者じゃなくてアーティストなんですよ。もちろんしっかりとした仕事もできるし業者のような技術もある。でもプラス自分たちの確立したスタイルを前面に出してて。そこに愛があって100%それを好きでやってるのが見ててわかる。そういうのがスケートに似てるなって感じてて。大きい業者に出して機械的にやるよりも、アイデアを出し合いながらコラボするように一緒に創るスタイルが好きですね。HAILPRINTSもそうでありたいと思ってるし。
 

 

V: そういう姿勢は大切だよね。今回のVHSMAGとのコラボTシャツのデザインもありがとう。VHSのモチーフがいい感じ。

H: VHSMAGとのコラボだからビデオテープをモチーフに入れたいっていうのはあって。VHSのビデオもそうだけど、アートもスケートボードも身近にあるもので特別なことじゃなく「これが日常の中にある自分たちの風景で楽しみ方」みたいなものを描きたかったんです。それと個人的にビデオテープとかカセットテープのほうがDVDとかCDよりも好きなんですよね、箱のジャケデザインとかでかくて凝ったデザインが多いし、単純にルックスとか色もかっこいい(笑)。トランプとかも今はオンラインでできるかもしれないけど、あの1枚1枚を渡し合いながら、話しながら遊ぶ感じも好きで。そういうアナログの古い良さみたいなものも出せたらいいと思いました。テレビが割れているのは単純にオレがあんまりテレビ番組を好きじゃないからですけど(笑)。


V: では最後に今後の活動予定を。

H: HAILPRINTSでは例のアーティストコラボをどんどんやっていこうと思ってて、技術的に今後はポスターとかデッキもできるようになればいいなって思ってます。それと並行して自分のアートではさらに海外で挑戦したいし、デッキのデザインももっとしたい。新しいことにもつねにトライしたいから、立体物とか新しい素材とか…ブランドや企業とのコラボとか。いい意味で見てくれてる人たちを裏切っていきたいです。すでにいろんなプロジェクトが進行中で、その中にはここではまだ言えない面白いものもありますよ。さらに広い視野を持って活動の場を増やしていきたいです。
 

 

Hirotton
@hirotton

1986年生まれ、静岡県出身。Heroin、Foundation、Toy Machineなどのボードグラフィックを手掛けてきたアーティスト。現在は創作活動と並行してスクリーンプリント工房HAILPRINTSを共同運営している。

 

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