
ある程度のスケートキャリア(20年前後)を築いていても、いわゆるバーチカルランプで普通にスケートできるスケーターには、ここ日本においてはなかなかお目にかかることができないように思えます。少なくとも自分の周りを見渡す限りそうです。悲しいかな何より自分自身に、その経験がまったくありません。これはもはやひとつの悲劇です。
「バーチカルスケートは死んだ」と言われていた時代、すなわち'90年代初めに本格的にスケートの魅力に取り憑かれ、当時最先端のスケートスタイル(いわゆるストリートスケート)を追及した世代にとっては、バーチカルスケートというものはあくまで観て楽しむものでしかありませんでした。それも海外(99%アメリカ西海岸)の大会の様子を小さいテレビ画面で観るだけでしたから、当然その真の迫力まで理解することはできず、最終的にはバーチカルの映像は早送りなんてことが正直ざらでした。そんな時代の流れの影響や環境的な問題など、さまざまな要因があるのは明らかですが、日本のバーチカル浸透度というものは下手をしたら30年くらい「世界レベル」というものに遅れをとっている現状が続いてきたように思えます。
そして昨今、果たして日本のスケートレベルは海外に追いついているのか? とか、どうしたら海外の一流(何をもって一流なのかはまた別の問題ですが)スケーターたちと肩を並べることができるのか、あるいはそうなり得るのか? というような話題をよく耳にします。いわゆる「世界レベル」と言われるものです。これにはいろんな意見があって当然なのでひとつの正答はありませんが、少なくとも自分の経験に基づいて意見させて頂くと、'90年代後半にその全盛期を迎えていた日本人スケーターの何人かは、確実にそのレベルに達していたと思います。当時世界的に主流であった、テクニカルなトリックを駆使したストリートスケートで、世界にその名を轟かせることの出来た日本人スケーターは確かに存在しました。
ではいったい今、何が日本のスケートシーンの真の成熟に必要なのかと考えたとき、僕はバーチカルスケートの活性化と浸透が必須であると思っています。最近では夏になると、全世界のありとあらゆるビーチで巨大なトランジションでの盛大なお祭りが催されるようになりました。それはもはやサーフィンの世界大会の前座的な興行ではなく、純粋なスケートイベントとして行われ、まさに老若男女がそのセッションを楽しみ、多くの観客が声援でそれに応えます。
このようなイベントを観て、楽しむたびに僕が思うことは、いまも昔も僕たちに本当に必要なのは流行に左右されがちなスキルや知名度を誇る「世界レベル」の量産よりも、持続可能な本物のスケートシーンの土台作りであり、それを支える屋台骨となりうる存在がバーチカルスケートなのではないかと考えています。
--TH (Fat Bros)