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先駆者へのオマージュ
──敵討ち

2019.08.30

 できることなら残したくはない、トリックの宿題。いつも滑るスポットですら課題はその日のうちにクリアし、気分上々で家に帰りたいってもんです。旅先だったり簡単に行けないような場所だとなおさらで、狙ったトリックを結局メイクできずに去るのは歯痒いってもの。もしくはそれが「やるかやられるか」というハンマーなスポットであるほど次回への宿題にするのはゴメンなはずです。イチかバチかに賭けるも返り討ちに遭い、涙を飲むことも。そんなスポットに別のスケーターが向かい、敵を討つことも時にあるようです。
 代表的なのはJawsが3回に渡る遠征でメイクし、世界のスケーターを「アッ」と言わせたフランス・リヨンの25段ステア。見るに耐えないスラムに見たこともないようなギアの壊れっぷり。同行していた父親や仲間の励まし、そしてさらにはアリ・ボウララの登場。アリ・ボウララのトライ&スラム以降、誰も触ることのなかった25段ステア。あれから約15年という時を経ての敵討ちに胸を熱くしたスケーターも多いことでしょう。
 僕が10代のころ影響を受けたビデオにもそんな「敵討ち」のドラマがあったことを先日知りました。今は無きVox Footwearの前身、88 Footwearというシューズブランドからリリースされたビデオ。ローカルショップのモニターに映し出されたハンマートリックを食い入るように眺め、後日お小遣いでゲットした思い入れのあるDVD。作品でトリを飾るコーリー・ダッフェルがエンダーで特大Wセットをオーリーしているのですが、これもまた敵討ちのメイクであったと。そのスポットに初めてトライしたのはカンテン・ラッセルだったのですが、数度トライするもあえなく撃沈。そこからしばらく経ち「コイツなら飛べるだろう」と連れてこられ成功を収めたのがコーリー・ダッフェルだったのだと。
 特筆すべきは、Jawsもコーリー・ダッフェルも成功に鼻を高くするのではなく、そのスポットの先駆者へのリスペクトを表明しているという点。Jawsはアリ・ボウララについて「初めて観たビデオのひとつがFlipの『Sorry』だった」と公言しているし、何よりそんな「先輩」の目の前で決死のダイブに挑んでいます。コーリー・ダッフェルもカンテン・ラッセルについて「誰もなし得なかったそのスポットの先駆者」と言及し、当時は彼のプライドも傷付けぬよう、しばらく時間を置いたうえでそのステアに挑戦したそう。さらには「Jawsならフリップでイケるかもね」とも。自分ができなかったことを後から他の誰かが成功させる…ちょっと悔しい反面、必死こいた分だけ驚き、うれしく思うこともあることでしょう。こうやって歴史が塗り替えられていく様もまた感動があって興味深いものですね。

─Kazuaki Tamaki(きなこ棒選手)

 

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