
40代後半に差し掛かってなお第一線で活躍を続けるアンドリュー・レイノルズがNew Balance Numericへの電撃加入を果たしたのは2022年のこと。あれから3年の歳月を経て、ついに彼のシグネチャーモデル〈933〉の全貌が明らかになりました。
スマホ持ち込み禁止のプライベートパークでウェアテストを重ね、サンプルも外部に持ち出さないという徹底ぶり。情報解禁まで一切のリークを許さなかった秘密主義は特筆すべき。
かくいう自分も一足先に履かせていただいたのですが、フィット感や衝撃吸収性はまさに異次元。それもそのはず、この〈933〉はレイノルズ自身が「これまでで最も深く関わった」と語るほどの渾身作。強迫性障害を公表する彼ならではのこだわりが細部に至るまで注ぎ込まれ、彼の美学、経験、人生観が凝縮されています。
完成までに要した期間は1年半以上。本社ラボではランニングやバスケット部門の専門家とも議論を重ね、ボードフィールを損なわない極限の薄さを維持しつつ、高い衝撃吸収性を誇るABZORBミッドソールを開発。踏み出しの安定感にはランニングシューズの技術が活かされ、横方向のブレにも的確に対応する設計に。つまり、ランニングプッシュからトリック、ステアにもラインにも適応できる構造が備わっているということ。
そして個人的に驚かされたのがディテールへのこだわり。アウトソールのトゥ部分には10個のノッチと年号が刻まれ、それぞれがレイノルズの人生における節目を意味しているとのこと。
●1978:誕生
●1987:スケート開始
●1995:Birdhouse加入
●1998:SOTY獲得
●2000:Baker始動
●2002:断薬・断酒
●2005:娘が誕生
●2010:『Stay Gold』のパート
●2011:現在のパートナーとの出会い
●2022:New Balance Numeric加入
さらにインソールを外すと、その下には〈933〉に決定するまでの候補であった「8055(=BOSS)」や「333」といった彼を象徴する数字も。極めつけは、ヒール部分に小さく施された、娘が描いた雲のエンボス加工。ちなみにこれは見過ごすほど極小サイズ。じっくり観察すればするほど、レイノルズという人物の奥行きが浮かび上がるデザイン。これほどまでに細部にまでこだわったモデルは極めて稀。
今年3月にはThrasherのカバーを飾ったことも話題に。1998年の初登場から27年、46歳にして5度目のカバー獲得は前人未到の偉業。この人の功績を挙げればきりがないほど。
とにかく〈933〉は機能性、デザイン、そしてストーリー性のすべてを兼ね備えた前代未聞の一足。単なるスケートシューズの枠を超え、“ザ・ボス”の美学が宿った新たなスタンダードといっても過言ではないでしょう。
—MK