VANS - ROWAN PRO

オリンピック前哨戦の舞台裏
──第32回:CHIMERA A-SIDE

2020.02.06

 優勝賞金1千万円。去年からその噂は耳に入っていた。誰もが無条件に出場できるコンテストではなく、2019年に3回行われた予選リーグを勝ち抜いた上位5名までがファイナル戦、1千万円獲得の舞台に立つことができる。ファイナル戦は11名の招待選手を海外から招集し、総勢16名でド派手にブチかまそうという壮大な企画だった。しかもインラインスケートやBMXと全4競技で賞金の総額は5,400万円。ひょんなことからこの予選リーグ3戦ともジャッジとして参加していた僕は、ファイナル戦に関してはヘッドジャッジ(とにかく一番権限のあるジャッジ)に任命されていた。理由は簡単、英語が喋れるので日本人のジャッジとアメリカ人のジャッジのパイプになれるから…ということであった。

 国内で今一番イケているスケーターがずらりと並ぶこの選手リストの写真に「自分がジャッジで参加」という調子こいたコメントを添えてインスタにアップすると「本当にナイジャ来るの?」というコメントが次々に届いた。ここまでのメンツが揃うことがどれだけ凄いことなのかがわかる。その中で「てことはYOUがナイジャをジャッジするの?」というコメントが目に入った…。わかっていたつもりだが、そう言われると急に「あれ、なんか? 若い時にAJSAのコンテストの練習中に緊張しすぎてグリッチョメイクしてエントリー費を返却してもらったこの僕がナイジャをジャッジするだって?」 改めて事の重大さに気づくのであった。


 1月24、25日。この2日間で行われたCHIMERA A-SIDE FINAL。初日は予選、2日目が決勝というスケジュールだが、前日にインすると公式練習が始まるところだった。海外のトッププロのコンテスト前の練習なんてなかなか観れることはない。最初は初めて滑る場所ということもありメイク率もあまり良くないのだが、そこはやはり国内のスケーターも海外のスケーターも厳選されたツワモノ揃い。30分もすれば大体自分のルーティーンを見つけ出してメイク率を上げてくる。招待選手枠で出ていた青木勇貴斗はルーティーンの最初に持ってきているノーリーインワードヒールを何度も失敗してやっと一度メイクすると、その後は外すことはなかった。白井空良は今回のメインセクションとなったバンクtoバンクのギャップtoレールにFsリップスライドを合わせていく。だんだんスピードや高さが合ってきてメイクし出すと何度も何度も確認するように連続メイク。すると急にステップアップしてFsテールスライドを1発でメイク。その後はFsテールをひたすらメイクし続ける。普段の動きからすると、本番ではもう1段階ステップアップしてFsテールを超えてオーバーのSs Kを狙っていくつもりなんだろうというのが想像できる 。ダショーン・ジョーダンはバンクtoバンクでのトレフリップを一度もミスすることはなく、ジェイク・イラーディは狂ったようなスピードでパーク全体を舐め回しながら繰り出すトリックを少しづつアップデート。ナイジャに関してはルーティーンを組むというよりは、ひとつひとつの技を確認していた。ただインタビューや取材で忙しく、ひととおりの確認が終わり次第さっとパークを去って行った。堀米雄斗はさまざまな可能性を模索するようにいろいろなトリックを試していて、ひとりになっても最後までずーっとバリスケ。単純に楽しんでいるようにも見えた。この辺はさすが世界のトップに立つ男、才能と努力の両方で成り立っているということが実感できた。ちょっと変わっていたのはジェイミー・フォイ。練習中ほとんど姿が見えず、みんなが疲れて練習を切り上げてからようやくその巨体を動かし、パーク内を1周すると一番長さのあるレールに目をつけ、いきなりバックサイド50−50を一撃で全流し。その次にFs Kも一発で全流しすると思いきや途中でバランスがおなか側に乗りすぎたのか、確実にアドリブと思われるレールの向こうにトランスファーでメイクという、乗れてる感全開の動きを披露。しかしやはりレールを全流ししたかったのか5回ほどトライし即メイク。これには流石に練習を終えた他のスケーターやインタビューを終えて戻ってきたナイジャまでもスマホを構え撮影していたほどだった。その後のジェイミーはビーストと化しすべてのレールを攻略。意外だったのはトーリー・パドウィル、疲れのせいかメイク率が悪く、バンクtoバンクでのキックフリップやノーリーフリップを何度もトライするも、ほとんどメイクできていなかった。

 予選当日。一流選手がずらりと並ぶ、凄い光景だ。ジャッジにはケリー・ハートとマット・ロドリゲス(あのマット・ロドリゲスとは同姓同名の別人)が右側に、そしてその逆サイドには立本和樹、荻堂盛貴という凄い顔ぶれの中央にヘッドジャッジの僕。マットはSLSの初期にずっとジャッジを担当しており世界トップレベルの現場での経験は頼りにしていたが、賞金1千万円を誰が手にするかをジャッジするのがこの自分たちのチームであるのを考えると手から汗が吹き出し、心臓を誰かに鷲掴みにされているような気分だった。マットとケリーも実際ナイジャが日本にやってきたことに驚いていた。

 2本のランと3本のベストトリックすべてが100点満点で採点され、一番良かったランとベストトリックの点数の合計、すなわち200点満点での採点となる。初日の予選は堀米が1位、ナイジャが2位で終わった。ベストトリックの方ではナイジャがデカいトリックをメイクしていたものの、ランで難易度の高いトリックをノーミスでメイクしていた堀米の点数が響いたのだろう。予選の時点で個人的にアガったのはトーリー・パドウィルだった。昨日の公式練習時にほとんどメイクしていなかったノーリーフリップを2本のラン両方で完璧に乗っていた。決勝進出とはならなかったものの、この集中力こそトッププロであり続けられる理由なのだろう。池 慧野巨の凄まじいBsノーズブラントスライドにも度肝を抜かれた。完璧なランディングと板の垂直なまでの立ち方に、トミー・フィンがその後同じトリックをメイクするも、着地のクオリティの差で慧野巨のポイントには届かなかった。上位8名は予選通過で翌日の決勝へ、その他の8名で敗者復活戦が行われ、ひとりだけ決勝への切符を手にできるというルールだった。

 予選というのは大体みんなミニマムに抑える。特にナイジャは予選を通過できる最小限の滑りに抑え「決勝ではトリックをアップデートしてくる」というマットの言葉通り、予選が終わった後の練習は全員これまでに見たことのない決勝用のトリックに手を出し始めていた。この練習がこれまたエグくて大会以上に目が離せなかった。明日が楽しみだと思うのと同時にまた緊張が蘇って来た。いよいよ1千万円だ。

 その夜のパーティを早めに切り上げ、予選でつけたスコア表をホテルに持ち帰りトリックと点数を見返すことにした。海外から本気で勝ちに来ている人、国内の予選を死ぬ思いで勝ち上がりこの舞台に立っている人、そんな人たちを前に下手なジャッジなんかできない。「これはどういうことだ」と突っ込まれたときに確実な答えを持っていることがジャッジには必要だ。

 決勝当日も早めに会場入りして殴り書きしたトリック表を見やすく清書し、決勝と敗者復活の選手名を出走順に並べてみる。そうすると予選と比べてどうだったのか、トリックをどこかでアップデートしたのか、もしくは抑えて堅く行くのか一目瞭然。ベストトリックも点数が高かった順にどのトリックが何点だったかというリストを作ってみた。緊張を抑えることはできないが、予選の時よりも確実に自信がついている。

 決勝の前のスタッフ控え室では、ジャッジチームは予選のポイントとトリックを見返すなどの話し合い、MCの上田 豪は昨日からひたすらトリック名の認識を全世界で統一したいという壮大な目標のため、外国人スケーターやジャッジと意見交換している。コンテスト中にトリック名を間違えることはできないし、限りなく正式名称で伝えたいという気持ちの表れだろう。DJを担当しているヴェニスとアリシャはヘッドホンをしたままパソコンとにらめっこ。ディレクターの荒畑潤一は鳴り止まない電話をさばき続けている。賞金の大きさや一流の出場者からか、スタッフ側も一流としてやらなければという責任感で、全体がまとまっている気がした。


 決勝が始まると、前日のように手汗と吐き気すら覚える緊張感はあったが、同時に「これだけやった」という自信もついていた。もちろん責任感のある立場だが、ここでの主役はやはりスケーター。僕なんかの緊張やプレッシャーなどは比べ物にならないようなレベルなはずなのに、一度コンテストが始まれば堂々と滑り、メイクする集中力にはただただ感動するばかりだった。

 1位ナイジャ、2位堀米、3位ジェイミーという結果はすでにご存知だと思うが、ナイジャも堀米も予選よりも確実にレベルアップさせたランで魅せ、ベストトリックが始まる時点でナイジャが若干ポイントで勝っていた。ベストトリックで先にナイジャの出番が来た。トライするトリックはジャッジサイドはほとんどわかっていた。昨日の予選の後に練習していて一度メイクしているハーフキャブからのBsスミスの180アウト。予想通りメイク。前日に結構な回数トライするも、最後に一度乗ったきりのトリックをこの本番でメイクしてくるところは流石としか言いようがない。後を追うように堀米がトライする。同じく昨日の練習でやっていたノーリーFs 270のSsバックサイドリップスライド。しかし堀米は練習の時点では一度も乗っていない。堀米がノーズを叩いた瞬間、時間が少しスローになったように感じた。若干前足が板から離れていたものの完璧なランディング。会場は熱気に包まれた。ナイジャよりも高いポイントだったが、ランとの合計ではまだナイジャに届いていない。ナイジャの2本目、何をするのかまったく予想がつかなかったが、ポイントでは堀米に勝っているしこのまま無難なトリックでさらっと行くのかと思った瞬間、先ほどと同じ動きでキャバレリアルから今度はBsノーズブラントを出してきた。これにはMCも大声を発し、ジャッジの席でも「ううぉーーー」という声が意識ぜず出てしまうほどのレベル。このトリックは一度も練習すらしていないし、誰も想像していなかった。まさに「手がつけられない怪物」という表現が一番正しいように思えた。

 表彰式でのナイジャの憎たらしいくらいうれしそうな顔はしばらく忘れることはできないだろう。ジャッジという立場もあり私情を挟むことは許されないが、やはり日本人に1千万円獲ってほしかった。なので多少残念ではあったが、もう間もなく開催されるオリンピックがより楽しみになってきた。今回のCHIMERA A-SIDEは間違いなく日本のコンテストの歴史に残る最高の舞台だった。主催のCHIMERAやこのイベントのために頑張って来たスタッフのみんなにもこの場を借りて感謝を伝えたい。Thank you guys and thank you skateboarding.

Daisuke Miyajima
@jimabien

M×M×Mの敏腕スタッフにして自称映像作家のジマこと宮島大介。伝家の宝刀Fs 180フリップをなくした今、どこへ向かっていけばいいのか迷走中。本能の閃きをたよりに書き綴る出口なしコラム。

  • FTC
  • Almost Skateboards