正直に告白しますとあの当時、確かに私はそれの依存症でした。 依存というものは実に怖いもので、気づくとそれがなければスケートシューズに足を通すこともできず、当然スケートすることすらもできなくなり、最終的にはそれ無しでは外出することもできなくなっているくらいにそれを手放せなくなっている自分がいました。そんなそれの味を知ったの21歳のとき、人生初フライトにして初海外であったスケートの聖地サンフランシスコに単身訪れた時でした。そこではプロアマ問わず多くのスケーターたちがそれをキメてバリスケしていました。そんな彼らが言うには、それをキメれば自分の足元がクールに見えるようになり、グリップ力もアップし、スケートがメチャメチャ調子良くなると言うのです。初めは少し怖かったのですが、そんなにスケートが調子良くなるのならばと勇気を出して僕もそれをキメてスケートしてみました。すると彼らの言うとおり、シューズのボリューム感がアップし自分の足元がかっこよく見えるではありませんか! おまけにグリップもガッチリくるようになり、それの虜になるのにさほど時間はかかりませんでした。
いま思えば、なぜそんなものに頼ってまでシューズのボリューム感にこだわっていたのか理解を試みるのですが、当時の記憶や感情もあいまいでそれを解き明かすことは正直難しいです。しかし、あの頃実に多くのスケーターがそれに依存し、そして時代の流れに伴いそれから決別し、昨今のシンプルなデザインがクールなスケートシューズを履いてスケートできるようになる時代の流れを経験できたということが唯一の救いでしょうか。
はじめは履きつぶしたソックスをただ丸めたものだったのが、次第に履きつぶしたハーフキャブやスーパースターのタンをきれいに切り取り、そこに横ズレ防止でグリップテープの切れ端を張ってカスタマイズする者が現われ、最終的にはそれそのものが商品として独立するまでに至ったスケシューのエクストラタンブーム、ヤングな世代にはナンのこっちゃ分からないであろうスケーターたちが時々生み出すヘンな習慣(やってる本人たちはスケート調子良くなりたくて必死)というのも、これまた実にアホくさくて魅力的な要素のひとつです。
--Takayuki Hagiwara (Fat Bros)